第177話 永久に残る絵
カルセインから餞別をもらってから、ベアトリスとリリアンヌがどこからか話を聞いた様子で、たくさんの贈り物を贈ってきた。
出発が明後日へと迫るなか、二人は贈り物と称して荷物を増やしていた。今日は最終確認という名の突撃をされている。
「ベアトリスお姉様、リリアンヌお姉様。こんなに持ってはいけません……」
「平気よレティシア。馬車は大公殿下が用意されるとは思うけど、追加の荷物はエルノーチェ公爵家から用意すれば良いのだから。リリアンヌ、これも持っていかせましょう」
「いいですね、お姉様」
セシティスタ王国や自分たちの物を持たせてあげようと、優しさからの行動とはわかっていたが、正直収拾がつかなくなっていた。
「荷物が多すぎると置場所に困るかと」
「何をいってるの。帝国の大公家よ? レティシアに用意される部屋が狭いわけないでしょ。ねぇ、リリアンヌ」
「当然ですね。あ、レティシア。この扇子セット持っていってちょうだい」
「あ、ありがとうございます。……じゃなくて!」
止めようにも止まらない二人だが、とても楽しそうにしていたので息をついて仕方なく諦めることにした。
「それにしてもお嬢様。やはり多いかと思います」
「そうよね」
荷物の全貌を確認しようと動いていると、こっそりとラナが教えてくれた。
「うーん……あ、そうだわ!」
「良い案でも思い付きました?」
「えぇ。ラナ、私の荷物持ってきてくれる? それこそ扇子とか装飾品とか」
「かしこまりました」
増やせない状況を解決するために、私は荷造りを進めていた自分の荷物をもう一度開けながら、二人の前に改めて座った。
「お姉様方!」
「「?」」
ぱんっと手を叩きながら注目を集めると、提案をした。
「やはりこんなに持ってはいけません」
「大丈夫だと思うけど」
「そこで! 考えたのですが、私の持ち物と交換しませんか?」
「「!」」
「お姉様達が私を心配して、自分達に馴染みのある物を渡してくださるのはとてもありがたいですし、是非持っていきたいです。ですが、その気持ちは私も同じなので。私を忘れないためにも、いかがです?」
自分の持ち物に非常に強い思い入れがあるわけではなかったので、それなら物々交換の方が良い気がした。
「名案ね、レティシア。そうしましょう」
「えぇ、とっても素敵。それで何をもらえるのかしら?」
ベアトリス、リリアンヌの順で両方とも快諾してくれたので、安堵の笑みを浮かべてバックから荷物を取り出した。
「色々ありますよ、まずはですね……」
こうして交換会が始まると、三人楽しく姉妹の時間を過ごした。
一時間ほど経つと、部屋にノック音が響いた。
「お取り込み中失礼します。うわっ、何だこの荷物量」
「文句を言うなら帰りなさい、カルセイン」
「そうですよお兄様。姉妹の時間に水を差すのは野暮です」
「……はぁ」
お前も大変だなという視線をことの元凶に向けられると、なんとも言えない笑みを返しておいた。
「時間です。画家の方が到着したので呼びに来ました」
「あら、もう?」
「待たせてはいけないですね、急ぎましょう」
「お姉様方ドレスは大丈夫ですか? シワになったりは」
「してないと思うわ」
「大丈夫よ、心配してくれてありがとうねレティシア」
カルセインが訪れた理由を知ると、それまでの交換会が一時休止になった。
姉弟揃って急いで玄関に向かうと、画家の人に挨拶をした。
作業をする広間に移動をすると、階段を背景に並ぶことにした。
ベアトリス、カルセイン、リリアンヌ、私の四人なので、二人が前に座り、二人が後ろに立つという構図だ。
「誰が座りましょうか?」
「あら、レティシアとお姉様で良いんじゃないかしら? 私は立つ気満々よ。お兄様は問答無用で後ろですよね」
「あぁ」
「何言ってるの、リリアンヌが座りなさい。一応これは家族の絵になるけど、二人の婚約祝いも含めてるんだから」
「お姉様、それはこじつけでは?」
「私が立つので、お姉様方はお座りください。それでいいですよね?」
「「駄目よ」」
なかなか座る人間が決まらなかったが、最終的にベアトリスの当主代理権限でお祝いの話が通った。
「まぁ、一番筋が通っていますからね」
「でしょう? カルセインは話がわかるわね」
「お姉様、権力はそうやって使ってはいけないんですよ。ねぇ、レティシア」
「はい、少し不服です」
「ほらいいから、座るのよ」
私が右に、リリアンヌが左に座ると、リリアンヌの後ろにベアトリス、私の後ろにカルセインという立ち位置になった。
こうして時間をかけて、家族の集合の肖像画を描いてもらった。
後で少し小さな複製を作ってもらって、それを帝国へ持っていこうと決めた。
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