第169話 浮き沈みの報告会
書斎で一連の出来事を改めて説明した。誤解を生んでしまった故に、侍女であるラナが誘拐されたこと。オーレイ家の兄弟間の問題。その問題はフィルナリア帝国によって片付けられたこと。
エルノーチェ家に残った騎士から聞いた出来事も踏まえながら、事実を擦り合わせた。
「……そう。本当に大変だったわね、レティシア。お疲れ様」
「自分で蒔いた種でしたので」
「いや。第三者から見ても、レティシアに非は全く無いと思うぞ」
「そうね。強いて言うなら運が悪かった、でしょうね」
「……ありがとうございます」
引っ掛かって、もやもやしていたことは二人の言葉で静かに消えていった。
「それで……フィルナリア帝国が問題を片付けたということは、大公殿下がお戻りになられたの?」
「はい。オーレイ侯爵が、レイノルト様のご友人であるリトスさんの実家なので」
「なるほどね」
「あ……でも、問題を解決してくれたのは別の方で」
「別の方?」
二人を前にして、会話の流れから重要事項を思い出した。
「はい。実は……」
今から告げることが重要機密事項であることはわかったいたので、向かい合うベアトリスとカルセインに少しだけ近付いて、声の音量を下げて告げた。
「レイノルト様の兄君、フィルナリア帝国の国王陛下がお助けくださいました」
「「!?」」
「今お忍びでいらっしゃってるみたいで」
「「……」」
「それで、その。……後日日程を調節して、挨拶に伺いたいと」
自分でもかなり衝撃的なことを言っている自覚はあったが、予想以上にベアトリスとカルセインの反応が大きく、自然と申し訳なさを感じてしまった。
「す、すみません。急な話で」
「……」
「……姉様、どうしましょうか」
「……そう、ね。とにかく全力で失礼の無いようにおもてなしをしないといけないわ」
「はい。警備も今以上に厳重にしましょう」
「えぇ」
(…………)
困惑気味の雰囲気に申し訳なさを積もらせながら、静かに話を聞いていた。
「レティシア。ちなみにフィルナリア帝国の陛下はどのような方かしら」
「どのような…………そう、ですね。一言で言うなら変わってらっしゃる方かと」
「変わってる?」
「はい。ご趣味は発明のようで」
「「発明?」」
「はい。実は今回の大きな助けとなったのが、陛下が作ってくださった危険を知らせるもので」
「危険を知らせるもの?」
「えっと……このように少し小さな筒状の形をしていて、後ろを引っ張ると火薬が作動して花火が打ち上がるんです」
「凄く画期的なものだな。これを陛下が?」
「はい」
「凄いわね……」
たまたま手持ちにあった発煙筒を見せながら、なるべくわかりやすいように説明をした。
「こんなに凄いもの、いつもらったんだ?」
「えぇと。ぼったくりの被害に合いそうになっていた所を助けまして。そのお礼に頂きました」
「待て待て。いきなりぶっ来んできたな。ぼったくりを助けた?」
「はい、実は」
ぼったくり騒動について簡潔に説明すると、思わぬ方向に話が飛んでしまった。
「レティシア、貴女……」
「は、はいお姉様」
「本当に立派に育って……自慢の妹よ」
「あぁ、本当に。普通じゃできないことだからな」
「あ、ありがとうございます」
褒められた嬉しさが込み上げて、思わず口元が緩んでしまった。
「それでお礼をもらったのね……」
「はい」
「……カルセイン。これは本当に本気で国王陛下に最高級のおもてなしをしなくてはならないわ」
「そうですね、姉様」
「……?」
「その花火はレティシアを守ったと言っても過言ではないですもの。結果的に侍女も守ってくれた。我が家の大切な末っ子をの危機を救ってくださった恩は返さなくてはならないわ」
「どうしますか。こういうのが得意なのはリリアンヌだと思うのですが」
「その通りね。丸投げはしないけど、予算を設けずに頼みましょうか。私達が持ちうる人脈と知識を駆使して、失礼がないのはもちろん、満足頂けるように準備するわよ!」
「わかりました」
「は、はい!」
思わぬところでベアトリスに意欲のスイッチが入った。驚きながらも、先程まで積まれた申し訳なさは消しても良さそうに思えたので自然と笑みがこぼれた。
「そうと決まれば明日から動くわよ。日程もリリアンヌと話し合って決めるわ。レティシア、後他に報告することはある?」
「報告」
「えぇ。これ以上衝撃を受けることはないと思うけど、何かあれば教えてちょうだい」
そう言われて少し考えてみると、思い浮かんだのはレイノルト様と過ごした馬車での出来事だった。
「報告……というよりも気になること、なのですが」
「どうした?」
「……その。私って、独り言が多いですか? 何か漏れてたりしたことって」
「無いと思うわよ。というか、むしろ真逆の印象だけど」
「俺も同意ですね。レティシアは何事も考えてから発言をしているから、たくさん心の中で考えてるが、決してそれが漏れ出たことは無いと思う。そこの線引きに対する意識は、かなり強い方だろう」
「えぇ。無意識なのかもしれないけど、決して下手をするようなことは今まで一度も見たこと無いわよ」
断言されるとは思わなかったので、とても貴重な意見として受け取った。
「ありがとうございます。少しだけ気になってたので」
「いいのよ。それだけかしら? それなら今日はもう寝ましょう」
「はい」
「おやすみなさい、お姉様、お兄様」
雰囲気が様々な方向へ向かった報告会は、無事終了した。
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