第166話 再会した兄弟
恋しかった声に振り向けば、酷く心配した様子のレイノルト様が思わぬ早さで駆け寄った。
「レイノルト、様っ」
(わっ)
名前を呼び終える前に力強く抱き寄せられた。すぐに離すと負傷していないかの確認を始める。
「怪我は、どこにもありませんか?」
「この通りどこにも」
「本当に?」
「大丈夫です、本当に」
元気であることを告げるものの、不安げな眼差しは消えずに頭のてっぺんから足の爪先まで怪我はないか確認をしていた。
(……っ)
ただ、レイノルト様は周りを気にしていない様子で私一人がいたたまれない感情になっていた。
(レイノルト様、周り! 周りを見てください!)
心の中で誰にも届かない叫びを発しながら、ギュット目を閉じながらどうにか訴えた。
「……」
「……」
(よ、良かった……)
周囲の気配に気が付いたのか触れていた手を離した。視線に恥ずかしさを感じて、一歩だけ私から更に離れた。
「リトス、事は済んだのか?」
「あぁ」
「お疲れ」
「あぁ、うん……ありがとう」
レイノルト様がリトスに労う言葉をかけるものの、受け取った本人の反応はそこまで良くなかった。先程までの出来事に引きずられている、というよりは自身の隣に立つ者を気にするような表情だった。
「レイノルト。久しぶりに顔を合わせた兄に挨拶もないのか?」
「……お久しぶりです、兄上。用が済んだのであれば速やかに帝国へお戻りください」
「用ならまだ済んでない。せっかくセシティスタ王国に来たんだ。お忍びだが、国王と婚約者であるレティシアの家族に挨拶をするのは当たり前だろう」
「レティシア……?」
「あぁ。この一件があってまだできてないのでな」
「兄上。早急に呼び方を改めてください」
「なんだ、別に良いだろう。私にとっては義妹で────」
「なりません。減ります」
「減るとは何が」
「二度とそう呼ばないでください」
「……リトス、これは本当に私の知るレイノルトか?」
「春が訪れている最高の証明かと」
「……そうか。朗報だから目を瞑るか」
レイノルト様は例え兄で、陛下であっても異論を許さないという絶対的な態度で挨拶を交わしていた。
「とはいえ、レティシアの」
「兄上」
「……レティシア嬢の実家には挨拶をしにいかなくてはならない。これは義務だからな。だから落ち着いてから日取りを決めたいのだがどうだろう」
ひょこっとレイノルト様の体から重ならないように顔を出し、私の方に視線を向けたライオネル陛下。
「そうですね。決まり次第ご報告しますので、一度国に戻られてはいかがでしょう」
「レイノルト、お前には聞いていない」
「大体、余計なことしかしないでしょう。私は既に成人した身です。兄上のおせっかいや面倒は必要ありません」
「余計なことなどしないぞ。ただ、両家の仲を深めることをするだけだ」
「既に挨拶は済んでおります」
「私はまだしてない」
「……」
両者譲らない姿を見ながら、気まずそうに口を開いた。
「あ……家族に話を持ち帰り、至急日取りを決めます」
「レティシア、必要ありませんよ」
「レ、レイノルト様」
(どうしよう……でも、お世話になった分、感謝も伝えたいから)
素早く却下するレイノルト様に苦笑いをしながらも、困惑の感情を浮かべていた。それと同時になにやらぼそりと呟くと、再びライオネル陛下を問い詰めていた。
「お世話になった……? 兄上。一体私の婚約者に何をしたんです」
「何って。助けただけだ、お互いを」
「どういう意味です」
「そう問い詰めるな。疑われるようなことはしていない」
(そうですよ。ぼったくられそうになった所を助けただけです。その後正体を知らないままお茶に誘われましたが、私にはレイノルト様がいるので即座にお断りしました。だから陛下の言うことは正しいんです! ……って言えたら良いのに)
二人の会話にもう一度入る勇気はなかったので、こっそりと応戦しておいた。
「……なら、良いです。疑ってしまい申し訳ありません」
「わかったなら良い。それにしても良いものを見た。レイノルトがここまで変わるとはな……兄として感慨深い」
「陛下、そのお気持ちよくわかります」
「……」
自分と出会うまでのレイノルト様のことはわからないが、それを知る陛下とリトスからするとやはり込み上げてくるものがあるのだろうと感じ取った。
レイノルト様はため息をつきながらも心を落ち着かせると、モルトン卿の存在に気が付いた。
「……貴方は?」
「お初にお目にかかります、大公殿下。レティシア・エルノーチェ様の専属護衛であるルーク・モルトンにございます」
「専属護衛」
「はい」
「心配した姉がつけてくれました」
「そうだったんですね。ありがとうございます、モルトン卿」
「もったいないお言葉です」
何事もなく紹介が進むと、レイノルト様から外へと誘われた。
「レティシア。色々と話したいことがあります。よければ外へ」
「もちろんです」
「行きましょう」
モルトン卿に目線でその場の待機をお願いすると、私はレイノルト様と宿の外へと向かうのだった。
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