第155話 侍女によるお言葉
翌朝、何やら騒がしい声で目を覚まして窓の外に視線を向けると、昨夜から降っていた雨は止む気配は一向になく、降り続けていた。
「……雨はまだ止まないのかな」
いつも以上に強く降る雨にどことなく不安を抱いていると、起こしにやって来たラナが扉を開けた。
「おはようございますお嬢様!」
「おはよう、ラナ。家の中が騒がしい気がするけどどうしたの?」
「それが、セシティスタ王国とアセルタ国を繋ぐ道で道が塞がれてしまったようで」
「道が?」
「はい。土砂崩れのようです。その道付近の雨はもっと強いらしく」
「だからお兄様が急いで出てるのね」
「そうですね」
宰相であるカルセインは、緊急事態のため王城に呼び出されたようだ。それも含めた騒ぎようだったらしい。
道が塞がれたことに、ふと気がつく。
「その道……フィルナリア帝国に行くにも使う道よね?」
「そうですね。良かったですねお嬢様、大公殿下が出発されたのは数日前ですよね?」
「……えぇ」
「でしたらもう既にその道は通られてるかと。心配はいりませんよ」
「そう、よね」
(……だと、良いのだけど。手紙が届かないことに加えて少し不安だな)
若干の胸騒ぎを感じながらも、レイノルト様の無事を祈った。
「あれ。お嬢様、これ何ですか?」
「うん?」
ラナの方向を向くと、彼女は先日ライと名乗る男性からもらった発煙筒を持っていた。
「あぁ、それはこの前言ったぼったくりの人にお礼って言われてもらって」
「知らない人からもらったんですか!」
「えっ、いや。知らない人じゃ」
「殆ど知らないでしょう。駄目ですよ、よく知りもしない人から物をもらっては!」
「お礼……」
「お礼でもです! 毒でも入っていたらどうするんです?」
「さすがに毒は入っていないと思うけど」
「それでもです!」
「うっ」
突如ラナのスイッチが入ったかと思うと、お叱りモードになってしまう。
「それにお嬢様。お嬢様は婚約者のいる身ですよ? よくわからない男性から物を受け取ってはいけません。火種になりかねます」
「火種って」
「火種です! 大公殿下を不安にさせたいんですか?」
「……ううん」
「誤解されたいんですか!」
「絶対に嫌」
「それなら二度と受け取ってはいけませんよ。流れで押し付けられたり、受け取らないとまた来そうな雰囲気だったとしてもです」
「わ、わかったわ!」
ラナに言われてはっとすると、自分の浅はかな行動を反省した。
「誤解を生んではいけないので、これは捨てましょう」
「あ……」
(お礼だから少し胸が痛む)
一応贈り手の手作りだったこともあり、少しだけ罪悪感が生まれる。
「ちなみに何なんですか、このキーホルダー。見たことありません」
「えぇと。何かね、筒から出ている紐を引っ張ると花火が打ち上げるらしいの。防犯道具、みたいな」
「防犯道具?……随分変なお礼ですね」
「手作りみたいで」
「手作り!? やっぱり駄目です。防犯道具ならお嬢様に身に付けることも考えましたが、手作りは駄目です。やっぱり火種になります!」
「う、うん」
「取り敢えず私が持っておきますね」
「そうね。捨てるくらいならラナが防犯道具として使って」
「使わないことを願っておいてください」
「もちろんよ」
こうして発煙筒はラナのポッケにしまわれた。
「……ねぇ、ラナ。今日も手紙はきてなかった?」
「そういえば来てませんね。といってもこの天候ですから。しばらくはかかるかと」
「そっか……それもそうね」
がっくりとしながら肩を落とす。手紙がこないこともそうだが、レイノルト様の近況を知れないことにもどかしさを感じた。
(……考えてみればこんなに長い間離れたことがなかった。会えないってこんなに寂しいんだ……)
窓の外の雨を見つめながら、寂しい想いを更に募らせた。
「お嬢様。手紙は届きませんが、カルセイン様の元にフィルナリア帝国の貴族名鑑なら届きましたよ。本当はご本人が渡すご予定でしたが、今日は忙しくなってしまわれたので頼まれました。どうぞ、お嬢様」
「本当に? ありがとう、ラナ」
「はい。最新版のもので、つい先月更新されたものらしいです」
「……後でお兄様にもお礼を言いにいかないと」
フィルナリア帝国に関する勉強をすると知ったカルセインは、自分にできることをと貴族名鑑を取り寄せてくれた。その優しさにありがたみを感じながら、早速ページをめくった。
「……レイノルト・リーンベルク」
めくってすぐに、レイノルト様の名前が表れる。その名前を無意識に指でなぞると、じっと見つめた。
「リーンベルク。ということはお嬢様もレティシア・リーンベルクになるんですね。凄く良い名前ですね!」
「え、う、うん。まだ早いわよ、ラナ」
「早くありませんよ。もう婚約もされてますし」
「そう、だけど……」
突然すぎるラナの発言に顔を若干赤くさせる。
(レティシア・リーンベルク……ふふっ)
悪くない、むしろ凄く良い。そんな気分になりながらページをめくった。
「……あ。オーレイ侯爵」
「オーレイ侯爵?」
「レイノルト様のご友人の家よ」
「なるほど。リオン・オーレイ様はご友人なんですね」
「あ、そっちじゃなくて…………?」
(リトスさんの名前がない……商人をしてるのはわかってたけど、まさか家を出てたの?)
オーレイ侯爵家にリトスさんの名前がないことに、少しの違和感を感じながらも、彼のことをよく知っているわけではないなと考え直した。
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