第137話 断罪の時
披露会の翌日。
陛下の宣言通り、父とキャサリンによる詳細な処罰が下ることになった。そのため、今度は王城に関係者が集まっていた。
エルノーチェ家の人間はもちろん、レイノルト様とフェルクス大公子に加えてフェルクス大公夫妻までもが揃っていた。
役者が揃ったことを確認すると、陛下は衛兵に命じた。
「エルノーチェ現公爵とキャサリン・エルノーチェをここに」
王城に連行された後、当然二人が屋敷に戻ることは無かった。自宅謹慎になら無かったのは、キャサリンが王家への虚偽罪に加えて不敬罪を重ねたことが大きな要因だろう。
姿を現した父はどこか諦めた表情を、キャサリンは私を見つけると思い切り睨んできた。そんな圧に負けないと目を細めて睨み返す。決して動じずに真っ当な反応をした。私の隣に立っていたレイノルト様が心配そうな視線を送ったので、安心してもらえるように穏やかな笑みで見上げた。
(大丈夫です。もう何も怖くありませんから)
そんな思いを込めながら。
両脇にそれぞれ衛兵がいる中で父とキャサリンは陛下の御前に立った。
「キャサリン・エルノーチェ。そなたは妹であるレティシア・エルノーチェの名誉を何年にも渡り卑劣なやり方で傷つけ続けた。この行為は決して看過することができない。その悪意に満ちた行為、レティシア嬢が提示した証言・証拠をもって偽りでないと証明されたことをここに認める」
陛下の威厳ある声だけが響く。
「そして。それに加えてその作り上げた虚構を王族に対して利用したこと、これは王家に対する侮辱であり許されることのない罪だ。それに加えて先日の私の言葉を無視し遮った件も含めて不敬罪も課される。以上の行いから、キャサリン・エルノーチェに貴族としての品格・資格、全てが存在しないと考える。よって、キャサリン・エルノーチェの身分を剥奪とする」
身分剥奪。それは自分が想像していた以上に重い罪状だった。静まり返る空間に思わず息を呑む。キャサリンは相変わらず現状に納得がいかないようで、わなわなと肩を震わせていた。ただ、前回の披露会から学習したのか、無駄に口を挟まずに無表情で陛下の話を聴いていた。そして父の様子は披露会の時と違うように見えた。
「それと。身分剝奪以前に、キャサリン・エルノーチェとエドモンド・セシティスタの婚約は破棄とする。以後王子妃と名乗ろうものなら、それだけで王家を侮辱したと取る」
「破棄……」
グッとキャサリンが力強く手のひらを握る姿が見える。
「それと。身分剝奪に加えて、東海の修道院行きとする」
「!」
(……東海の修道院って確か、国内で最も厳しい修道院よね。監獄に近いって聞いたことも)
「修道院、ですって……」
先程からキャサリンは、決して遮ることなく黙って聞いている。ただ、ポツリと呟いている声が耳に届いていた。
身分剥奪の結果、平民として放置なのではなく修道院送りをすることで監視する点、陛下の中でもキャサリンはただの罪人ではなく要注意人物のようだ。
「陛下。発言を許可いただけますか」
そう挙手をしながら、キャサリンは品格者を装うように口を開いた。
披露会の去り際が鮮明に残る中、どう足掻いても品のある人間には決して見えない状況だが、全く気にする様子はなかった。
「許可しよう」
「ありがとうございます。……下された罪状ですが、全ての罪を認めることができませんわ。まず名誉棄損ですが、この件に関しては認めざるをえません。真実はどうあれ、証拠と言われるものがここまで出てきてしまったのですから、何かしらの罰は受けますわ。ですが。王家への侮辱罪は根も葉もないことにございます。第一に、殿下との婚約ができたのは私自身の実力があってのこと。そこに妹は関係ございませんわ。不敬罪に関しましては、自身の身の潔白を証明しようとするあまり、頭が真っ白になってしまいました。どうぞ寛大なお心でお許しくださいませ」
悲劇のヒロインの時のように、何故かその主張が通ると信じて疑わない圧倒的な自信を持った声色に気味の悪さを感じながらも、キャサリンの話を皆が黙って聞いていた。
「そもそもの話。陛下のお手を煩わせるという現状こそが、最も罪深いことにございます。家庭内での揉め事ですので、私の処罰の決定権は父である公爵が決めるべきかと」
(……なるほど、そういうことね)
キャサリンにとって絶対的な味方である父を武器にすれば、自分はまだどうにか助かるという算段なのだろう。そのおめでたい思考に呆れながら、陛下の言葉を待った。
「そなたの主張はよくわかった。しかし、今回のこの処罰内容は公爵立ち合いの元、決定したものである」
「!!」
「よって、そなたの言う公爵が処罰内容を決めるべきという意見を採用しても、処罰内容は何一つ変わらない」
「お、お父様……? 嘘ですわよね?」
(お父様が?)
陛下の衝撃的すぎる発言に驚いたのはキャサリンだけでなく、私自身もであった。
キャサリンが今度は別の意味で震えながら父の方を向く。
「……キャサリン。もう終わりにしよう」
「‼」
その言葉は、今日見た表情を納得させるものだった。
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