第136話 披露会の終幕
無事に披露会は終幕を迎えた。
主催者側の一人として招待客を見送る形になったので、会場に最後まで残ることになった。国王陛下を見送りに大公夫妻が付き添うように会場を後にすると、親しい顔ぶれのみになった。パーティーの終わりかエスコートの終了を感じると、自然と手を離した。その瞬間、思い切りベアトリスに抱きしめられる。
「レティシア‼」
「お、お姉様っ」
「よくやったわ、本当に。本当によくやったわ……」
「……はい」
「よく頑張った、レティシア」
「お兄様も。ありがとうございました」
抱きしめられている最中に、ポンと頭を撫でられる。感傷に浸っているのか、その手は思っている以上に長く置かれていた。
「お兄様。いい加減その手をどかせてください。レティシアの髪が崩れてしまいますわ」
「もうパーティーも終了したんだ。別にいいだろう」
「本気で仰ってますの?」
カルセインの様子に不満げなリリアンヌは近づきながらそう告げた。
「まだ婚約者様がいらっしゃるでしょう」
「あ……すまないレティシア」
「ふう。……お疲れ様、レティシア」
「話が違うぞリリアンヌ」
「ありがとうございます。リリアンヌお姉様」
レイノルト様に聞こえないようにそっと呟いて牽制を済ませると、今度は自分が優しく頭をなでながら後ろから優しく抱きしめられた。
姉二人に囲まれると、少しカルセインには申し訳なくなったがその暖かさに心からの安堵の笑みをこぼした。隙間から見えるレイノルト様と目が合うと、最上級の優し気な笑みを向けられた。思わぬ不意打ちに胸がきゅうっとなったが、姉達に気づかれないように慌てて平静を装った。
「……あそこに混ざりたいのに、何故だか威圧を感じるんだが」
「それは仕方ないよカルセイン。……ああ、お義兄様と呼ぶべきか」
「大公子。今妙に体がぞわっと致しました」
ポンっとフェルクス大公子がカルセインの肩に手を置くと、カルセインはその言葉から思わず身震いをした。気づけば男性陣は男性陣で固まっている。
「酷いな。これでも身内になるのだからこれからも仲良くしてほしいよ。お義兄様」
「では私もお義兄様と」
「リーンベルク大公殿下!? おやめください。私より立場も年齢も上のお方が」
「いえ。レティシアの兄君ともあたる方に無礼は許されません。……それに、まだ形式で呼ばれるだけあって親交も浅いですので」
「確かに。僕も大公子だ」
「そ、それは。お二方の方が立場が上で」
「家族になるのですから。お気になさらないでください」
謎に二人に詰められているカルセインに憐みの目線を向けながら、姉達はその胸から私を解放した。
「────っ、わかりました。リカルド殿。レイノルト様。こう呼びますので、どうにか名前で呼んでください。義兄様だけは! おやめください」
「何故私は様なのでしょう」
「確かに」
「何となくです」
男性陣が親交を深めている間、私は改めて姉達から労いの言葉をもらっていた。
「……本当に、よく頑張ったわ。妹の成長をこんな間近で感じられるなんて思いもしなかった」
「言い過ぎですよ、ベアトリスお姉様」
「いいえ。キャサリンだけでなくお父様までやっつけたんですもの。一人でよくあんなに立ち向かったわ」
「何かあったら文句をすかさず言ってやろうと準備はしていたのだけど。私達は必要なかったですね、お姉様」
「ええ。本当に……自慢の妹よ、レティシア」
「私も。こんな素敵でカッコイイ妹自慢でしかないわ」
そこにはお世辞や無理やりな誉め言葉ではなく、純粋な心の底から思っている言葉があった。気持ちを直接受け取ると、謙遜する必要もなくただお礼を告げる。
「ありがとうございます。ベアトリスお姉様、リリアンヌお姉様。全てはお姉様方の助力あってこそ。私の方からもお礼を。本当にありがとうございました」
直接戦えたのは、数々の支えがあってこそだった。そのありがたみを再度感じていた。
「……そうだわレティシア。貴女、階段から突き落とされたのは本当?」
「あ……えっと」
「カルセイン! どうなの!?」
心配かけまいと秘密にしていたが、後処理に関してすっかり忘れていた。事実だと分かれば、せっかく暖かく収まっている姉達の心情に影響を与えると感じたため、急いでカルセインに誤魔化すよう視線で伝える。
「あ、あれは対キャサリン用のはったりでして」
「本当に?」
「本当です」
ベアトリスの威圧ある問かけに何とか動揺を隠して答える。
「ふーん。じゃあ怪我も嘘かな。えいっ」
「っ! 何をするんですか大公子」
「リリー、どうやらお義兄様の怪我は本当みたいだよ」
「あら」
「カルセイン! 怪我を見せなさい」
「いや、大丈夫で」
「問答無用よっ」
「リカルド、そのお義兄様って……」
「いいでしょ」
それぞれが分かれると、私も自然とレイノルト様の元へ近づいた。
「レティシア、怪我は」
「この通り、どこも異常ありません」
「本当に?」
「はい。怪我をしたのはお兄様だけなので」
「……それなら良かった。でもまだ後から痛む可能性もあります。その時はしっかりと教えてくださいね?」
「わかりました」
「絶対ですよ?」
「はい、必ず」
そう微笑み合いながら言葉を交わすのだった。
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