第130話 下された審判





 国王陛下と言うには少し若々しい印象を受けたものの、その佇まいと雰囲気は権力者を表していた。


 国王の登場に開いた口が塞がらないのは、観客であった周囲の貴族も同じことであった。ただ今は、会場内の全員が揃って国王陛下が言い渡す文言に耳を澄ましている。


「さて。まずはレティシア嬢の言い分についてだが」


 自分の名前を国で一番立場の上の人に呼ばれるだなんて思ってなかった為、思わず息をのむ。

 キャサリンと父は先ほどから挙動不審な視線と表情になっていた。


「何一つおかしな点はない。証拠もあることから至極まっとうな主張であり、認められるものだ」

「そんな馬鹿な!」

「ありえませんわっ」

「…………」


 陛下の言葉に信じられないという反応を示す二人。それは取り巻きも同じようで、怪訝な声が小さく聞こえるも、それはほんの僅かな声であった。


「貴族にとって名誉は命と同等に重要なもの。それを著しく傷付けたとされる、レティシア嬢からキャサリン嬢への名誉毀損の抗議は、認められるものとする」

「あ、あんまりですわ! 陛下!!」

「陛下! お考え直しを!!」

「そなたもだぞ、公爵」

「な、なにがてしょうか」

「なにが、ではない。そなたは公爵であり父親であるにも関わらず、どちらの役目も果たさなかった。それに加えてその自覚がない。これを重く受け止めよ」

「…………っ?」


 まさか自分に言葉の矢が向くと思っていなかった父は動揺して狼狽える。


「よって名誉毀損の訴えをここに認め、その罪を償うことを命ずる」

「陛下、お考え直しくださいませ! 妹は私を蹴落とす為に虚言をっ!!」

「発言は許可していないが?」

「っ!! 申し訳ございません」

「うむ。先程から聞いていたが……虚言、か。レティシア嬢の言い分には一つも虚言がないのに、どこからその言葉が出てくるんだ? それを裏付ける為の証拠である筈だが、もしやキャサリン嬢は証拠が何かはわからぬ人間か」

「そんなことはっ!」

「ならば私の下す判断も理解できる筈だ」

「…………っ」


 キャサリンの言い訳には無駄に耳を傾けず、ピシャリと正論を言い放った。


「名誉毀損の訴えの罰としては、本人が望むなら接触禁止と、数ヵ月の謹慎という所だろうな」


 ポツリと国王陛下が呟きながらキャサリンの処罰を整理する。


 その間、キャサリンは手に尋常でない力を込めながら肩を震わせていた。どうにか逃げ道を探しているのはわかるが、もはや退路はどこにもない。


 数ヵ月の謹慎。散々されてきた事に比べた時、その罰は酷く軽く感じてしまった。けれど、キャサリンを追い詰め化けの皮を剥がしたのなら。そんな風に考えながら、キャサリンを冷ややかに眺めていた。


「だがそれは、キャサリン嬢の罪が名誉毀損だけに済めばの話だ」

「それは……どういう意味でしょうか、陛下」

「わからぬか。そなたはレティシア嬢……妹の全てを自分の思うがままに利用して、自身の価値を塗り固めた。その結果優れている者として評価された筈だ。妹を更生できる立派な姉という姿が。その結果、エドモンドの婚約者……王子妃になった。全てはキャサリン嬢の意図的な行動だったわけだが」


 淡々と話している陛下だが、その言い方にはキャサリンへの配慮はなくただ鋭く容赦ない声色であった。まるで全てを見抜いた者のように。


「しかしその姿も、君の評価自体も、真実からはかけはなれている事が今回確認できた。これはレティシア嬢の証拠だけが決め手ではない。弁明の姿からも、今までされていた優秀だという評価からは本来の姿は別物だと私が個人で判断した。……婚約者となった過程は全て虚偽だったという訳だ。さて、王子を……王家を騙したこの愚行。どう処罰するべきだろうか?」

「ま、待ってください!! 私はそんなつもりはありません!!」

「そうか? そんなつもりがない人間は、何年も妹の事を利用などしない。その上王子妃を目指そうだなんてしないさ。違うか?」

「誤解でございます!! 私は、王子妃というありがたいお話を受けただけで!」

「なるほど。見抜けなかった我らに非があると」

「そんなつもりはっ……!」


 退路がないことに気がつかない愚かな姉は、それでも抗おうとして失敗していることにも理解していなさそうだ。


「確かに、エドモンドの見抜けなかったその目には大きな問題があるだろう。だが、他者を利用して不当に得た評価を意図的に悪用したのも事実だ。王家を騙したことに違いはない。よって、厳罰に処することをこの場で告げる」

「お考え直し下さい陛下!!」

「罪を受けるのはレティシアの方ですわ!!」


 予想外の発言に驚きながらも、国王陛下の言葉を受けてもなお、過ちを認めようとしない二人に呆れがピークを回る。


「これは、この問題の中立者をかって出た私が下した決定事項だ。異論は認めない」

「「陛下!!」」

「そしてその態度と言動。己の罪に一度でも向き合うことなく、何一つ自覚がないそなた達の思考は悪質極まりない。よって再考の余地なしだ。下される処罰を追って待て」


 さすがの取り巻きもどうにもできないと察したのか、口を閉ざしてしまった。


 必死な形相で抗議の声しか上げない二人だが、その勢いを止める陛下の一言が落とされた。


「それと。一つ既に決まっている事がある。それはキャサリン嬢とエドモンドの婚約解消だ。王家としては、問題の多い人間を受け入れる訳にはいかない」

 

 


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