第108話 闘志を抱いて
「リカルド、早かったわね」
「リリーに会いたくて」
「そう」
フェルクス大公子が部屋に入る最中、そっと席を立ってベアトリスの隣へ移動する。
聞き慣れたと言わんばかりのリリアンヌの対応を観察しながら、大公子の言葉を待った。
先ほど放った言葉は本人を目の前に消え去ったのか、リリアンヌの隣に座ると雰囲気が落ち着いていた。
「リリー、どこまで話したの?」
「狼煙を上げたことまでよ」
「わかった。ではベアトリス嬢、レティシア嬢、カルセインのお三方。ここから先は僕が説明するね」
「お願いいたします」
三人揃って軽く頭を下げる。
フェルクス大公子はそれに頷いた。
「では狼煙を上げた所で。もちろんこちらも披露会を行う。日程も決まっていて、数日後の週末に開催するんだ。是非お三方にはご出席いただいて」
(…………不味い。ドレスの準備が)
「安心なさいレティシア、貴女の分は用意してあるわ」
「ベアトリスお姉様……ありがとうございます」
「いいのよ。カルセイン、貴方は自分で準備なさい。というかしたでしょう?」
「はい。……何というか、扱いが雑ではありませんか」
「お兄様、気のせいでは?」
「…………」
少し悲しそうな表情になるカルセイン。
どうやらこの話は私が恋愛に奮闘していた時期には決まっていたことで、ベアトリスは既に手配をしてくれていたようだった。
リリアンヌが自身を貴族に売り込んだ際、既に披露会の話は伝えたそうだ。もちろん、味方になってくれる又は有力な貴族限定のよう。
「披露会にはただ参加してくれるだけで嬉しいです……と、本当なら言いたかったのですけど」
そう言うと、少し悲しげな眼差しになるリリアンヌ。
「披露会が滞りなく進む可能性は低いです。必ず何からしらの妨害を受けると踏んでいますので。何せ敵は身内ですから」
身内、それはもちろんキャサリンのことを指す。
「招待状は用意するつもりなのね」
「悩みましたが……身内を呼ばないわけにはいかないでしょう? 体裁も踏まえて、お父様にも招待状を送るつもりです。だから」
「だから二人の相手を私達に、ということですよね。お姉様」
「……レティシア」
気持ちを汲み取り発言したのは、ベアトリスではなく。私自身だった。
「前回は負けましたが、今回は負けません。撤退もしないし逃げもしません。必ず勝ちます。……お姉様の披露会を決戦の場にしてしまうのは申し訳ないのですが」
「それはいいのよ。……まさかレティシアからそう言われるだなんて」
「本当によく成長してるわ、レティシア」
「私もそう思います」
「ありがとうございます」
そう告げるものの、二人からは心配する表情が見て取れた。
「……私、これでも生誕祭以降から毎日睨む練習は欠かさず行っていたんです。もちろん他の表情も含めて。キャサリンお姉様に勝てるよう、努力は惜しまずに続けてきたつもりです。……ですから、そんなに心配なさらないでください」
少し苦笑いに近いような、自虐気味に笑うと私の本意を続けた。
「とは言え、私が戦うべき相手はキャサリンお姉様のみです。お父様に関しては……お二人にお任せしますね」
「任された。……でも、これは俺よりも姉様が適任ですね」
「……えぇ、わかってるわ」
ベアトリスは力強く頷くと、私に向かって微笑んだ。今度は心配の様子は一切見えずに。
「レティシアが確実に勝てるように、私達は支援を惜しまないわ。必要なことがあれば誰でもこきつかって」
「特に俺を」
「レティシア、私も力になるから。何でも言うのよ?」
三人の瞳はまだまだ妹を見守る眼差しだが、意思を尊重して助けてくれる姿は最高に頼りがいのある姉達と兄だ。
「面白いね。僕ものった。気になることがあればうちの情報網と人脈のを使って構わないよ。いくらでも支援をしよう」
「あ、ありがとうございます」
楽しそうに便乗するフェルクス大公子に、呆れ半分喜び半分で見つめるリリアンヌ。
頼もしい存在が増えたことに気持ちも強くなる。
「さて、当日の簡潔な作戦会議はこれまでにして。一番大切な申し出をするのを忘れてたよ」
「申し出、ですか」
「うん。お三方、リリアンヌは披露会までの当日、フェルクス
「安全面の考慮ですか」
「さすがカルセイン。話が早いね。その通りだよ。エルノーチェ公爵家自体に敵が住んでる以上、安心はできないだろう。それに加えて、婚約発表をした今、王妃がどう動くかわからない」
「そうですね……」
フェルクス大公子の意見はもっともで、すぐに納得する。それと共に私は疑問が浮かんだ。
「……あの、王妃様が婚約をよく思われてないのはわかるのですが……国王陛下は」
「伯父上は少なくとも手は出してこないよ。彼は愛国心が強いから、国をより良くするものに跡を継がせてくれると踏んでる。確かなことは、息子だからという情報はない。エドモンド殿下が未だに王太子になれてないのがその証拠だね」
「……なるほど」
「だから勝機は十分ある」
にこりと爽やかな笑顔で告げるものの、その瞳からは軽く闘志を感じた。
その瞳に触発されて、自分も更に闘志を強めるのだった。
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