第68話 生まれる懸念(ベアトリス視点)


 カタログのドレスについて尋ねに行った割には、帰りが遅く感じる。何かあったのだろうかと少しずつ不安が大きくなるものの、無事を願って待機を選択した。

 

 二人は部屋に戻ってくるなり、一階で起こった出来事を話した。


 まさかの父と兄との遭遇。


 それだけでも十分な衝撃だというのに、レティシアのデビュタントについて耳にした瞬間更なる驚きが自身を襲った。


 貴族の令嬢にとって、デビュタントがいかに大切かは男性でも知っていること。それを古着で済まさなくてはいけなかった状況に、酷く胸が苦しくなった。同時に、何もできなかった自分に腹が立ちたまらなく悔しい感情に覆われた。その思いはリリアンヌも同じようで、黙っていても伝わっきた。


 私とリリアンヌは、当然のようにデビュタントは華々しく着飾った。それをレティシアができなかったと考えると、負の思いは強くなっていった。


 それでも、レティシアにとってはそれが最善の選択であったことを説明された。


(今でこそ身近に感じて、姉妹という認識が強まっている。けれど、当時に焦点を当てればレティシアの言い分は筋が通った正しいものなのよね)


 納得すると同時に、決戦の日に着るドレス選びに尋常のないほど熱を入れた。


 レティシアにどんどん着替えてもらう間、父と兄について一人考えていた。


(それにしても、腑に落ちないことが多すぎるわ。私とリリアンヌの時は遠ざけてたとは言え、さすがにデビュタントに一言二言は口を出した。なのにレティシアは何もなし。これは……)


 恐らく誰かに面倒を見ることを丸投げしたのだろう。そんなことを彼らが頼むのは、キャサリン一人しかいない。


(それに加えて、散財の勘違いの件。いくらあの二人が思い込みが激しいとは言え、何のきっかけもなしにはその考えには至らない。……判断する材料は帳簿や報告。そこに偽りがあるのは間違いなさそうね)


 そんなことをするのも、あの家ではキャサリンだけだ。レティシアを圧倒的な悪者として仕立て上げ、自身を輝かせる。今まで行ってきたキャサリンの手口。だがそれは社交の場で充分行った筈だ。家の中でも立場を下げる手段と言われればおかしくはないが、必要性は感じない。


(ここまでくると、個人的な感情が見える……。レティシアが変わり始めたのは良いことだけれど、キャサリンを相手にした時、簡単にはことは運ばないでしょうね)


 懸念と不安が積もりながらも、だからこそ私とリリアンヌの補助も強化せねばと思い直した。それと同時に、私も来る日に備えて色々と動き出すことを決めた。


 可愛い妹の笑顔を守るためにも、姉としてできることを全力で。


 そう静かに胸に刻むと、ひとまず目の前のことに集中した。


 レティシアのドレス決めを終えると、店で昼食を取った。大公へのお礼に悩んでいたレティシアだったが、何件か店を回ると満足いくものを見つけたようで材料を購入していた。


 穏やかな一日を終えると、再び決戦の日に備えてそれぞれが動き出すのだった。



 

 

 


 

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