第63話 姉妹で城下へ


 図書室から戻った姉達は本を片手に「出掛ける準備をして!」と支度を促した。急ぎラナに外出用のドレスを準備してもらうと、袖を通して馬車へと向かった。


 今日はいつもの一人用の馬車ではなく、複数人で乗る用の大きなものだった。付き添いとしてラナの同行を快く受け入れてくれた。四人で乗り込んだことが確認されると、直ぐ様出発した。


「まずはドレスの新調からね」

「主役はキャサリンとは言え、レティシアの好みは恐らく被らないから、好きなドレスを着て大丈夫よ。何か希望はある?」

「似合うものならなんでも」

「それだと世にある殆どのドレスが当てはまってしまうわ。……ここは戦略的に考えてもいいかもね」


 そういうと少し考え込むベアトリス。


「お姉様が戦略を考えてくれる間に、基本的な貴族令嬢のドレス事情を話すわね」

「お願いします」

「まず第一にトレンドを取り入れることが重視されているわ。これは言わずもがなだけれど、私たちは意識したことは殆ど無いわね」

 

 演技をしている間は、イメージを裏切らないことが優先される。その為にトレンドよりも、イメージらしさを取ることが多かったとリリアンヌは言う。


「ドレスってオーダーメイドだったり人気店のものを購入したり、財力が丸わかりになるもの。だから、安っぽかったり陳腐なドレスは自身の品格を下げる行為に繋がるわ。……これに関してはレティシアも身をもって体験しているでしょう」

「はい」

「最低まで下がってしまった品格を取り戻すためにも、今回のドレスは華やかなものにする必要があるでしょうね」

「華やか……着こなせるように頑張ります」

「ふふ、頑張って」


 会話を交わしている内に、城下にあるドレスの有名店に到着した。初めて来店する私に対し、姉達は慣れた様子で足を踏み入れた。


「お待ちしておりました。個室を用意しておりますのでそちらへ」

「ありがとう。取り敢えずトレンドのドレスを全て持ってきてちょうだい」

「かしこまりました」


 案内をされる間に注文をつけるベアトリスの手法を、ただ眺めているだけであった。

 個室で一息ついている間に、どんどんドレスが並べられていく。それを吟味しながらベアトリスは難しい顔をしていた。


「……迷うわね」


 ボソリと呟くベアトリスとは他所に、リリアンヌはドレスについて話した。


「私はキャラを保つために偏ったドレスばかり着ていたものだから、正直流行には疎いのよね。その上正常な感覚も持ち合わせてないから、一般的な良し悪しはわからないの。でも、お姉様は着てないだけで、ドレスに関しては詳しいから任せて大丈夫よ」

「はい」


 その言葉に大きく納得ができるのは、以前ドレスを譲り受けた時に感じたセンスの良さがあるからだろう。


「レティシア、これを着てみて」

「わかりました」


 ベアトリスによって二つにドレスが選別されていく。恐らく、試着してみるものとそうでないものだろう。ベアトリスからドレスを受けとると個室内の試着室にラナと二人向かった。


 着替え終わり試着姿を見せると「じゃあ次」という言葉と共に、新たな一着を与えられる。その過程を永遠のごとく繰り返していった。


 十数着試着を終えると、ベアトリスは躊躇いもなく告げた。

 

「これ全て買うわ」

「……ベアトリスお姉様、さすがに全ては」

「これでも少ない方よ、安心して」

「で、ですが」

「レティシア、不安になることはないわ。これは別に貴女が払うわけではないのだし」

「それが不安の要素なのですが」

「安心していいわよ、お父様のお金だから」

「あ…………」

(何一つ安心できませんよ、ベアトリスお姉様!)


 私が反論する余地もなく、店員によりドレスが運ばれていく。試着に時間がかかったとはいえ、スムーズにドレス購入が終わったことは確かだ。ただ、胸に残った少しの不安を気にしていると、姉達は話を始めた。


「レティシアはお父様のお金だと聞いて、手を出すことには抵抗があると思うけれど。この使用は当然の権利だと思うべきなのよ」

「当然の権利ですか」

「えぇ。ろくに育児をしなければ、面倒も見ない。関わりを持とうとしないくせに、何かがあれば知っているかのように決めつける。これほどまでに迷惑行為をされているのだから、そのお詫びとして散財して良いと勝手に思ってるわ」


 とんでもない理論で語り出したベアトリスに続き、リリアンヌも毒を吐き出す。


「親として役目を果たしたことなんて数少ないのよ、あの父は。だからせめても、養うという最大の役目は遠慮なく使いこなさせてもらって何も問題はないと思うわ。自分の子供という点は同じなのに、人によって対応が違うのはおかしな話でしょう。それで宰相を勤めてるんですもの、笑っちゃうわ」


 皮肉たっぷりの言葉に、困惑を浮かべながらも内心ではその言い分に強く納得している自分がいた。

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