第62話 偉大なる長女(リリアンヌ視点)
「取り敢えず二人の様子を伺ったらどうかしら」
頭を悩ませながら、到着した図書室で本を探していた。その横で本に手を伸ばしながらベアトリスは落ち着いて意見を述べる。
「二人の様子といっても、いつ大公にお会いできるかわかりませんよ」
「それが数日後にはお目にかかれるのよ」
「数日後? ……まさかキャサリンの」
「そう。王子妃候補者であり公爵令嬢だから、滞在している大公宛に招待状を出してたみたいなのよ。まさか参加するとは本人も思っていなかったんでしょうね。喜びの声が部屋の前を通りかかった時に聞こえたわ」
大公殿下にどのような意図があろうとも、招待を受けてくれることはキャサリンにとって利点になる部分が大きい。それだけ高位な人間を呼べるというキャサリンの評価にも少なからず繋がるからだ。
「まさかいらっしゃるとは」
「驚きね。私は大公殿下についてほとんど存じ上げないけれど、こういう場に来ることが希少であることはわかるわ。建国祭ですら見かけなかったからね」
「……来訪の理由は恐らく、というか十中八九レティシアですよね。だとしたら好意は間違いなさそう」
呟いた言葉が、よりこの問題の重要性を直視させる。
「もしも大公の好意が揺るぎないものならば、私たちが観察すべきはレティシアの方よ。……きっとあの娘、恋愛を経験していない上に自分の中に恋愛に類似した感情があっても自覚してないでしょうから。行うべきはレティシアのサポートで間違いないわ」
「……お姉様の言う通りですね」
何か重大な局面に達した時、いつもこの姉は焦ることなく慎重に判断を下している。その姿は今も健在で、妹に対して自然と安心感を与えてくれる。姉の偉大さを改めて感じながら、レティシアの姿を浮かべた。
「それに……もしも実現したら、レティシアにとって良縁になると思うのよ。だって大公殿下の悪い噂は聞かないでしょう? あったとしてもその女性への対応くらい。それをレティシアはクリアしてるのだから、心配する要素はなくなる。相手として何も不足なしよ。帝国の大公ですもの」
「確かにそうですね。エルノーチェ公爵家という肩書きにだけ群がる、国内の格下の令息達とは比べ物にならないほど優良物件です」
意見のあった私たちは目を合わせて頷いた。
「……だからとにかくサポートよ。今は手作りに関して、無難な答えを教えるのがやるべきことね」
「はい。ですが大公となると、食べ物は止めておいた方が良いでしょう。どこかで悪用されかねません」
「えぇ。毒を万が一盛られた時に罪を擦り付けられたりしかねない、とてもリスクの伴うお礼はよろしくないわ。まぁ、他国であるセシティスタでは何も起こらないでしょうけど。用心に越したことはないから」
トラブルに巻き込まれる要素が含むものは避けた方がいい、姉の意見に納得をした私は本を眺めながら案を告げていく。
「……だとしたら刺繍とか?」
「うーん、悪くはないけれど……あと四日で仕上げられるものではないでしょうね。働きにもいくのでしょう?それに加えてパーティーの準備も考えると……あまり現実的ではないわ」
「時間のかからない手作りのものですか。……ミサンガとか書いてあります。ただ、ミサンガは少々貴族的とは言えませんが」
「方向性は良いと思うわ」
次第に本をめくる音だけが室内に静かに響いていく。少し経った頃、ベアトリスが思い立ったように声をあげた。
「というか思ったのだけれど、何かを手作りするには材料が必要よね」
「はい」
「あとレティシアは新しくドレスを用意しないとよね」
「そうですね」
「それなら城下の店に行った方が早いわ。商人を呼ぶとなると半日が潰れるでしょ。働き始めるあの娘に時間の確保は難しいわよ、きっと」
「確かに。それにレティシアは、普通の令嬢と違ってドレス選びに何時間もかけない気がします。ですから今から出掛けるのもありでは?」
「その通りね。何冊か持って行くわよ。レティシアに至急着替えてもらわないと」
「急ぎましょう」
言い切るよりも前に、本を抱えて扉へと向かっていた。
こうして私達姉妹は、初めて三人で買い物へと出掛けるのであった。
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