第50話 長女の独り言(ベアトリス視点)


 作戦会議を終えて一人部屋に戻ると、そこにはまだ賑わった面影が残っていた。三人で座ったソファーに一人腰かけると、どことなく寂しさを感じる。感傷に浸りながら天井を見つめた。


(……やっぱりレティシアは変わってる子、だったわね)


 レティシアとまともに会話したのはこれが初めだったが、一方的な交流は何度かあった。


(どんな子かわからなかったから、接し方も考えてなかった。お陰様で強く当たる結果になってしまったのだけれど)


 思い出すのは代理出席を頼んだ日。レティシアに任せたことに罪悪感を抱きながら、もしかしたら満更でもないのかもしれないと一抹の不安を持ちながら待機をしていた。


 あの頃はまだ、レティシアがどのような妹かはほとんど知らなかった。それまでは姉妹とは思えないほど交流の頻度は薄く、関わることは皆無に等しかった。


(あの人に意識を向けすぎて、レティシア本人について考える機会は無かったから……知らなくて当然なのよね)


 姉という立場にも関わらず、レティシアに関しては本当に何も知らなかった。だから、もしかしたらキャサリンに似てしまった部分も少しはあるのではないかと考えてしまったのだ。もしそうだとしたら、代理出席で何か得てくるだろうと踏んでいた。


(問い詰めるように絡めば、本心を見れると思ったけど。まさか、違う意味で怒られるとは思わなかった)


 レティシアは私の不安を軽く吹き飛ばすだけでなく、自身がいかに常識人かを示す対応を見せた。面倒事を押し付けてしまったことに後悔を抱いたが、レティシアについて大切なことを知れたので良しとした。


(尻拭い、ね。まさかそんなこと言われるだなんて思わなかったわ)


 今思い返しても可笑しくて笑みがこぼれる。レティシアがパーティーを好んでいないのでは、という話はリリアンヌから聞いていたものの、実際に目の当たりにすると不思議で理解に時間がかかった。


(お陰様で……レティシアがあの人とは全く違う種類の性格で、キャサリンとは似つかない妹ということがわかった。あの日ほど大きな収穫はなかったわ)


 その日を境に、私はレティシアに対する認識を改めた。


(今までも姉として守らなくてはと思ってたけれど、あの姿を見てその意思が強まった。レティシアは、あの子は守るべき価値のある妹だと。そう直感的に思えて嬉しかった。自分のやってたことは、意味があったと)


 紅茶を淹れ直すと、茶器を手に取る。


(全体的にとても変わってる妹だけど、素直で良い子なのよね。変わろうとしてる部分も好印象だし、何よりも)


 レティシアが決意をした姿を思い出す。


(あの子からは敬意を感じる。悪い気は少しもしないわ)


 それを感じる前は、レティシアに嫌われているのではと心配になった時もあったものだ。


 ドレスを贈ろうとして、意気込んで用意した割に受け取ってもらえなかった日は落ち込んだものの、今日の姿を見ると理解できる。


(あの子の中にある欲は、普通の貴族令嬢とは全く違う方向にあるのよね)


 今日という一日で、レティシアという妹に関してようやく姿が見えた気がした。


(……全力で守り抜いて見せるわ、これからも。それが姉の務めですもの)


 遠く窓の外の空を見つめながら、決意を誓った。

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