第49話 戦いに備えて
ベアトリスに現在習得中の技術の話をすると、それも踏まえて作戦を考えてくれると断言した。
「なるほど扇子ね。確かにレティシアによく似合うわね」
「そうでしょうお姉様」
「使い方さえ身につけられれば、最初はそれ一つで十分かもしれないわ」
「初めから飛ばし過ぎてもレティシアが持ちませんからね」
「えぇ。変化は少しずつでいいのよ。確実であればね」
期待のこもった二つの眼差しを受けると、より一層努力しようと気合が入った。
「レティシア。次にパーティーへ出席するのはいつ?」
「……一週間後に我が家で開催される、キャサリンお姉様の生誕祭です」
「……そんなのあったわね」
「欠席するつもりだったので存在を忘れてたわ」
「私もよ」
「……お二方とも欠席なのですか?なら」
毎年、家族だから発生する義務のように出席をしていた。当然意思を聞かれれば、出る気はない。生誕祭は名の通り誕生日を祝うパーティーで、毎年恒例で行われるわけだがいつも以上にキャサリンの絡みは面倒になる。建国祭と並ぶくらい、憂鬱な行事である。
「駄目よ。ただでさえ建国祭の最終日を欠席してるんですもの。これ以上は貴族としての矜持が汚れるわ」
「頑張って、レティシア」
「何言ってるのリリアンヌ。貴女も同じよ?仮病はそんな短期間で何度も通用しないわ、諦めなさい」
「頑張りましょう、レティシア……」
「二人してそんな視線を向けないでちょうだい。……私も出席するから」
ベアトリスの言い分はどこも間違いがなく、頷くことしかできなかった。
「……そういえば、どうしてベアトリスお姉様とリリアンヌお姉様は生誕祭を行わないのですか?」
「あの人がいる時は目立った行動を控えるため、その後は単純に面倒で開催してないわ。大体催したところで、何の利点もないもの」
「それどころか、キャサリンに利用される恐れがあるくらいですもの。だったら必要ないでしょう?」
「確かに」
「これに関しては義務でもないし、今時は身内だけで済ます貴族も少なくないもの。そもそも、こういう個人的なパーティーは多くの者に慕われていて成り立つのよ」
ベアトリスの一言に納得していると、話が元に戻る。
「そういうわけで、出席はするとして。問題はどう戦うかよ」
「開催地は自宅とは言え、空気は完全にあちら側ですもの。面倒なことこの上ないですね」
「まったくね。……まぁ何度も言う通り、まだ初回ですから。派手なことをやるというよりも、地味に少しずつ仕掛けに行く感覚でいいんじゃないかしら」
「それこそ扇子、ですよね」
「えぇ」
リリアンヌから貰った扇子を取り出して手にすると、やる気を表すかのように開いてみせた。
「キャサリンが絡んできたら、扇子を広げて威嚇するのが一番よね。当然、それくらいでは微塵も怯むことはないでしょうから、その上にさらに構えないと」
「相手に喋らせる隙を与えないというのも大切よ。あと、文句や言いがかりに何だかんだ効くのは正論だから」
「確かにキャサリンは雰囲気で正当性を主張しているけれども、結局のところはでたらめですものね」
「……キャサリンお姉様劇場ですから」
キャサリンを称えるためという絶対的な脚本の元に行われる劇。だが、それに手出しができないわけではない。
(今まではしてこなかっただけですもの)
ふと、初めて反論した日を思い出す。あの時は私の行動が予想外すぎてキャサリンは固まったが、結局結末はキャサリンの思い通りになってしまった。だからあれくらいでは駄目なのだと悟る。言い逃げではなく、正面から言葉で戦わなくては。
「……いいわ。レティシア、扇子や立ち振る舞いはリリアンヌに教えてもらいなさい。私からは貴族令嬢として、口での戦い方―――品のある毒づき方を教えるわ」
「お、お願いします!」
考えていることはベアトリスも同じであったようで、私への指導を宣言した。
「楽しくなるわね、レティシア」
「リリアンヌ。真面目にやりなさいよ」
「もちろんですよ。やるからには徹底的に。それは、レティシアの指導も同じ事です」
「お、お手柔らかにお願いします」
「気合十分なら問題ないわ」
リリアンヌの意味深な笑みに、少し背筋が凍りながらも本気で取り組むことを改めて決意する。
「あとあれね」
「あれ?」
「新調しないと、ドレスを」
「え」
「お姉様、出席するんですから私も新調してもいいですよね?」
「リリアンヌは買いだめしてあるものがあるでしょう」
「今回は特別です」
諫めるように告げるベアトリスに対し、何か考えがある様子のリリアンヌ。
「……好きになさい。レティシアは新調しないと駄目よ」
「で、ですが。この前頂いたドレスはまだ一度しか着ていません。それに一着残っています。最終日は欠席したので」
「そう。なら別の機会にでも着てちょうだい。今回は、レティシアの手で選ぶのよ。生まれ変わるのなら、見た目もしっかりしないと」
「そうよレティシア。お姉様の趣味ではなく、貴女らしいドレスを選ばないと。気合をいれるためにもね」
「……わかりました」
二人に説得されると、新規購入に頷いた。ドレスはまた後日、二人の姉立ち合いの元で買うと決めた。そしてその後、三人で初めて揃って食事をとった。家族と食べるご飯は、いつも以上に美味しかった。
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