第36話 深まる想い(レイノルト視点)
建国祭最終日。
パーティーの為に礼装を身に付けると、一段と気合いをいれる。少しでも彼女によく見てもらうために。
ようやく彼女の顔が見れる。一日会わないだけだというのに、感覚が麻痺をしたかのようにその時間は永遠のように感じていた。
喜びの溜め息をつきながら、馬車へと向かった。馬車に乗り込むと、王城までの道中は建国祭初日の出来事を思い出していた。
(相変わらず魅力的な対応だった)
浮かぶのはホールで彼女と踊る場面。ダンスは苦手だと聞いていたものの、いざ自分が断られそうになると胸が苦しくなった。決して引き下がらず、かといってしつこさを感じない物言いで彼女の了承を得られた時は、嬉しさのあまり顔に出すぎてしまうかと思った。
基本ダンスは相手との距離が近くなりすぎた結果、躍り終わるまで延々と心を聞かなくては行けなくなるために好まない。だが彼女は違う。心の中とはいえ、ぞんざいに扱われたのはほとんど無かった。思わず笑ってしまったが、足元に集中していた彼女は気付かなかったことだろう。
見栄を張ることを知らず、目の前の相手には目もくれない。とにかくひたすらステップに集中する姿を彼女の心情込みで見ていると、とある感情が沸き上がった。
(あれが、可愛らしいというのだろうな)
まさかそんな感情を理解できるようになるとは思えなかった。兄が聞いたら驚きのあまり、椅子から転げ落ちることだろう。
躍り終えた後も、時間が許す限り彼女の傍にいたいと思った。噂がたつことを案じてくれたが、彼女とのものならば一向に構わない。再び上手く立ち回ることで彼女の了承を得た。
何気ない会話から始めれば、彼女の内心に薄暗い感情が過った。話を進めれば悩みを抱いていることが判明する。悩みを吐露する姿を見て、彼女の人間らしさに初めて触れた気がした。基本的に彼女は常にどこか皮を被っている。本心をさらけ出すような真似は見たことがない。そんな彼女が、偽ることなく本心をこぼす姿は本当に新鮮で嬉しかった。
心を少しは開いてもらえたのだろうかと錯覚してしまうほどに、気分は高まっていった。それと同時に、彼女の悩みに真剣に向き合い考えた。歳上らしい助言ができるように奮闘できたと思う。
彼女の心から薄暗いものが消えていくのを見て、胸を撫で下ろした。
一息つくと、今度はスノードームの話をし始めた。彼女に城下を案内をしてもらって以降、会えない日が長らく続いた。といっても数日間の出来事だが、それでも辛かった。どうにか乗り切るために、彼女を近く感じられるものを手にしようと考えた。そこで思い付いたのがスノードームだった。
リトスに無理を言って、できるだけ彼女が手に入れたものと近い物を探してきてもらった。それを書斎に迷いなく置くと、何度も見ていた。見る度にあの日の彼女の姿が鮮明に思い出されるのだ。自分の中の思い出でなんとか耐え凌ぎながら時間を潰したと思う。
(今度はお揃いの物を手に入れたいものだな)
それを簡潔に告げれば、思い浮かべたのか彼女が声を出しながら小さく笑った。作り笑いとは全く違う、純粋に出てきた笑いだった。
(あの表情は……いつまでも見ていられる)
その素敵すぎる笑みを脳裏に焼き付けると、いつか必ずそれよりも大きな笑みを目にしようと努力を決めた。それと同時に独占欲が芽生え始める。この姿を他の誰にも見せたくないと。
彼女を手に入れたいという気持ちに拍車がかかるのを感じながらも、制御しながら想いを述べた。彼女に魅力的だと伝えたが、全く本心だと思われなかった。予想はしていたものの、ここまで撃沈に近い状態になるとさすがに少し落ち込んでしまう。
それでも仲は間違いなく進展している筈なので、それに自信を持って気持ちを立て直す。同時に彼女とより親しくなるには、もっとよく考える必要があると判断する。
馬車に乗る彼女を見つめながら、更なる進展を願っていたことを思い出す。
王城が近付く中、彼女へのアプローチを考え込み始めるのであった。
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