第15話 二人の城下散策③

 

 大満足の買い物を済ませてお店を出ると、ふと我に返った。


「…………何だか申し訳ありません。私は案内役なのに自分のことをしてしまって」

「シア、それは不要な謝罪ですよ。むしろ私は嬉しいくらいです。一緒に観光を楽しめているみたいで」

「そうですか……それなら良いのですけれど」


 紛れもない本心であることが暖かな視線から伝わる。その様子に安心しながらも、改めて気を引き締めた。


「次は何処に向かいましょうか」

「では……何か、セシティスタ王国ならではの場所か食を堪能できる所はありますかね」

「それでしたら……時計台は如何でしょうか?実は城下からとても近いんですよ」

「それは知りませんでした。時計台はセシティスタの観光名所の一つですよね。興味があるので、是非行きましょう」

「ご案内します」


 相変わらず手を乗せたままだが、それには気にせずに任せろと言わんばかりの表情で引き受けた。


 ということで、城下近くにある時計台を見に行くことに。昨夜調べた甲斐があったことに嬉しさを感じながら歩き始めた。


「シアは時計台に行った経験はありますか」

「遠目から何度も見たことはありますけれど、近くで見上げたことはないので楽しみです」


 この案内が決まると、改めてセシティスタ王国に何があるのか調べてみた。その為に昨夜、家の書庫に入った。


 調べ進めると、自分の知らないセシティスタ王国の数々の観光地を目にした。とても新鮮な感覚で、普段自分がいかに小さな場所で過ごしているのかを感じた。


 働いてお金を貯めたら、セシティスタ王国中を観光するのも悪くないなと思った。


 数十分歩き続けた結果、時計台に到着した。高くそびえ立つ塔のような時計台を二人で見上げた。


「……近くで見ると迫力が凄いですね」

「こんなに高いとは思いませんでした……驚きです」


 時計台の大きさに感嘆しながら数分眺めると、内側が気になった私達は足を踏み入れて行った。


「これは……見事ですね」

「…………はい」


 王城内に引けを取らないほど豪華な内装で、照明は高級そうなシャンデリアが務めていた。壁には絵画と彫刻が並んでおり、まるで美術館のようであった。


「平日なのに人が多いですね」

「それだけ人気だという証拠ですね。名所なだけあり、華やかな賑わいを感じます」

「確かに。レイ、どこから見ましょうか」

「やはり時計台に来たからには上まで行きたいですね」

「是非行きましょう」 


 上ることがこの時計台の醍醐味で間違いない。大きな時計の裏側を遠目から見れることと、展望台のように外の景色を見ることができる。


「おや、昇降機は故障中みたいですね」

「えっ」


 上にまで行く昇降機はここ数日修理をしているようだった。


「これは……残念ですね」

「…………」


 初めて見るレイノルト様の落ち込む姿にどこか申し訳なさを感じる。どうにかならないものかと周囲を見渡した。


「あ…………」

「どうしましたか、シア」

「……あの、レイさえ良ければなのですが」

「何でしょう」

「階段を使いませんか」

「え?」


 私の目に入ったのは時計台の上に続く階段。昇降機無き今は、それしか手段がないのが現実だ。


 私はまた別日にでも訪れればよいが、レイノルト様は違う。どうにか打開できるやうに考えたのだった。


「……シアは大丈夫ですか?」

「もちろんです。たくさん歩くと思うので、気が乗らなければ別の場所に」

「せっかく来たのに醍醐味を楽しめないのは味気ないですからね。行きましょう」

「はい、頑張りましょう……!」


 こうして私達は階段に向かった。


「シアは運動がお好きなんですか」

「そういう訳ではないですよ。ただ、体力に自信はあります」

「働く姿を想像すると……納得ですね」

「食堂のお昼は戦場みたいなんですよ。たくさんのお客さんが食べに来る時間帯なので」

「それは……とても大変なのでは?」

「慣れるまではそうでしたが、今はこなせるようになりました。大変ですけど、とても楽しいですよ」


 料理を運んだり注文を受けたりと、とにかく走り回っている内に体力はついたと思う。そんな日々を想像しながら楽しそうに話した。


「楽しい……」

「はい」

「面白い人ですね、シアは」

「……変わっている自覚はあります」


 遠い目をしながら答えた。


 この国のどこを探しても、労働に多くの時間を費やす令嬢はいないと思う。ましてや歳を考えれば私は結婚適齢期なのだ。変わっているどころではない。


「ふっ」

「あ、笑いましたね」

「すみません。そういう意味では無かったのですが、シアの返しが意外で」

「反論はしませんよ、自覚があるんですから」

「そうですか……ふふっ」


 小さく笑っていたレイノルト様は少しツボに入ったようであった。


「そ、そんなに面白かったですか」

「いえ、可愛らしかったです」

「は、はぁ……?」


 答えに理解できないまま、何となく相づちを打った。不思議な気分になりながら、上り続けていた。


「おや、言われたことはありませんか」

「可愛いとですか?」

「はい」

「無いですね……」

(可愛い……悪評しか言われたことない)


 明らかに困惑の表情を浮かべているのか、少しいたずらな笑みを浮かべてレイノルト様は言葉を続けた。


「もしやシアの周囲は見る目が無いのでは?貴女はとても可愛いですよ」

「言われなれてないので、変な気持ちです。でもありがたいお世辞として感謝します」

「世辞ではありませんよ?」

「だとしても、ありがとうございます」

(からかわれてるなコレ)


 戸惑いながらも受け流すが、終始レイノルト様は楽しそうだった。

 何だかよくわからない会話を続けていると、いつの間にかゴールが見えてきていた。

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