第14話 二人の城下散策②


 朝食を済ませると装飾品が見たいというレイノルト様の希望で、装飾店に向かい始めた。


「フレンチトースト、本当に美味しかったですね」

「有名かつ人気の理由がよくわかりました」

「確かに」

(頑張った時のご褒美にしようかな)


「ですが、残念ながら緑茶は合わないかと思われます」

「緑茶……仰る通りもっと合う料理はあると思います」

「そうですね」


 仕事の話の際に述べていたのが、セシティスタでお店に入る時は緑茶に合うかどうかをどうしても気にしてしまうらしいことだった。本人は仕事のしすぎだと苦笑いをしていた。 


「装飾品は何か気になることがあるんですか」

「実はこちらに来て、まだ一度も装飾店には入ったことがないんですよ」

「ご自宅にお呼びしたりは」

「それも無いですね……興味がそこまでないこともありますが、せっかくセシティスタに来ましたので」

「見るだけ見ておこうと」

「はい」


 装飾品の類いはレイノルト様よりも興味がないという自信がある。三人の姉達は頻繁に商人を呼びつけて購入をしているが、私は必要最低限以外は手元に置かない。

 その買い物に割く時間があれば、働く方が余程有意義だと感じてしまうのだ。


「中に入りましょうか」

「そうですね」


 レイノルト様の服装が幸いして、入店することができた。おすすめ等の説明は不要と初めから告げたためにゆっくりと店内を見ることになった。


「あまり流行などには疎いのですが、シアは何か好みの物はあるのですか」

「好みですか……特には」

(たっ、高過ぎる……!)


 問いかけに答えながら値段を見てみれば、どのネックレスや指輪も高価なものばかり。

 前世の感覚が抜けず、公爵令嬢という今世の感覚が育たなかった私からすれば違いもわからずにただ眺めることしかできなかった。


「入店してしまいましたからね……何か一つくらいは買わなければ」

「…………」

(これ一つが私の数ヵ月の給料だと思うとなんだか怖くなってきた)


 レイノルト様の呟きが耳に入らないくらいに目の前のショーケースに夢中になっていた。と言っても注目しているのは値段だが。


 普段は高くないものを購入しているし、そもそも使い回すという思考があるので滅多に購入しない。そのせいか、身に付ける機会があるとはいえどこか縁遠いものに感じてしまう。


「何か欲しいものはありましたか」

「へ? …………いえ、何も」

(恐ろしいほどに物欲が沸いてこない)


「何か購入しようと思うのですが……」

「興味があるものは?」

「特には……」


 そう悩むレイノルト様を横目に、私は一つのネクタイピンが目に入った。


「ではあちらにある、ネクタイピンなどどどうでしょうか」

「ネクタイピン……」

「宝石などよりかは実用性があって良いかと思います」

「なるほど……どれがよいでしょう」

「うーん……右端にあるシルバーのものがシンプルで便利で良い気がします」


 指差したものは、とてもシンプルだが品のあるデザインで目立ちすぎないような作りだった。


「ではそれを買います」

「え、本当ですか」

「はい。シアの言う通りシンプルで気に入りました」

「なら良かったです」


 案が採用されたことに驚きながらも、本人が満足そうに購入する姿を見て安心した。


 店を出ると、次の目的地を考える。


「城下には多少なりと詳しいと言われてましたが、もしシアの行きつけがあればそこに行きましょう」

「行きつけ……それはないのですが、行ってみたいお店ならあります」

「行ってみたいお店ですか」

「はい。生活品や小物、アンティークを取り扱うお店なのですけれど」

 

 素通りの日々ではあるが、前々から気になっていたお店だ。少し奥まった所に秘密の場所のようにあるため、そんなに人はいない。


「面白そうですね、行きましょう」

「本当ですか!こっちです」


 興味のない装飾から一変し、個人的な期待値の高いお店へ行けることに気分が上がる。


 装飾店の高級そうな外観とは真逆なほど地味な色合いでできたお店だが、内装はとても落ち着きのある作りだった。


「これは……凄いですね」

「はい……」

(わぁぁぁあ、見てみたいものがたくさんある!)


 食器のような生活必需品からミニチュアのような置物など、様々な物が並んでいた。


「見てくださいレイ。この茶器とても可愛らしいですよ」

「おや、こういうのが好みですか」

「はい……あ、この食器も可愛い」


 そう言って目をつけたのは、ウサギがモチーフになった薄いピンクと黒いロゴやデザインのものだった。


「…………面白いですね」

「可愛くないですか」

「可愛いと思いますよ」

「そうですよね……はっ」


 交わす会話のなかで、一つのスノードームが目に入った。


「綺麗……」

「これは?」

「スノードームですよ。こう倒すと……ほら、雪が降るみたいじゃありませんか」

「本当ですね」


 スノードームを片手に解説をしながら値段を見てみる。そこまで高くない。なんなら先ほどの装飾と比べて天と地のくら差があってむしろ安い。


「……レイ、これを買っても良いですか」

「気に入りましたか」

「とても。ですがレイが気に入ったのであれば」

「いえ、大丈夫ですよ」

「本当ですか……!ではすぐ買ってくるので、しばしお待ちを!!」


 スノードームに一目惚れをした私は念のためにレイに確認を取った。

 さらに高まる気持ちを押さえながら店主のところへと向かった。

 

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