第13話 二人の城下散策①


 当日にはエルノーチェ家に迎えに行くとにこやかに提案されたが、厄介な事になること必至なので丁重に断った。

 

 こちらから伺う旨を伝える前に本人から現地集合と言われた。確かにその方が目立たない気もしたので即了承をした。

 城下の散策と時間があればその周辺を見て回りたいとの希望を告げられたため、集合場所は城下街の中心にある噴水に決めた。


 そして今、その噴水より少し離れた場所にいる。


(気のせいかな、凄い目立ってる気がする)


 噴水周辺は集合場所として多用される場所のため人が多い。そこに溶け込めば特段目立つことはないと考えていたのだが……。


(食堂の時も思ったけれど、全く平民に馴染めてないと思う。なんならそこそこの金持ちに見えるし……)


 変装に至っては今さら変更は不可能なため切り替えて受け入れる。


(というか来るの早くない?待たせると申し訳ないから、三十分前に到着したのに既にいるだなんて)


 急ぎ足で噴水に向かうと割と遠距離でこちらに気付いた。


「お待ちしてました」

「遅くなり申し訳ありません」

「まだ時間前ですよ?遅くなどありません」

「……比べると遅いかと」

「はははっ」


 いつも見る笑顔よりもどこか無邪気さが加えられた笑みは、相変わらず眩しく発光力は通常運転のようだ。


「では参りましょう。……えっと」

「レイで構いません。ここで様付けの呼びは目立ちますからね」

「わかりました」

(もう目立ってるけど、自分じゃ気付かないタイプ?それとも気にしないタイプか)


「私は……シアで構いませんか?」

「か、構いません」

(私の庶民ネームがバレている……まさか他にも色々バレて?)


 ここまで来ると驚きはしないが、後は何を知られているのだろうかと少し探りたくなってしまう。


「ご安心を。他はまだ何も知りませんから」

「え?あ、はい」


 顔に出ていたのか、沸き上がる不安に柔らかく否定をしてくれた。


「では今度こそ参りましょうか、シア」

「は、はい。……あの、この手は」

「エスコートのつもりでしたが不快でしたでしょうか」

「え、いえ」

「では」

(こ、断りにくい聞き方!)

  

 本日はとにかく不快な思いをさせてはならないと要望はできるだけ聞き入れようという考えでやって来た。なので余程の事以外は流されて行こう。


 意図がよくわからないまま手をレイノルト様の手の上にのせると、本日二度目の発光を感じながら歩き始めた。


「レイノ……レイは城下に来たことがあるのですか。噴水の場所をご存知だったので」

「あります。と言っても素通りだけなんです。後でゆっくり見て回りたいと思っていたのですが、時間も案内も用意できずにいました」

「なるほど」


 セシティスタの城下は場所によっては入り組んでいるために、初めてだったり一人だと迷子になりやすいとされている。その為、案内はあるにこしたことはない。


「まずはどこに行きましょう?何かご希望があれば」

「取り敢えず、城下のお店を見て回りたいですね」

「わかりました」


 レイノルト様のご希望でそのまま城下街を散策することに決まった。


「ちなみにシアは城下には詳しいのですか?」

「多少なりとは」

(校正の納期先である会社があるから、割と来てるかもしれない)



「と言っても素通りが多いので、お店に詳しいかと聞かれればあまり」

「そうなんですね」

(城下の食べ物は高いから、むやみやたらには手を出さないんだよね)


 エルノーチェ家の近くにある屋台通りは城下から外れた場所にあるため、客層に貴族は入らない。

 それに比べると城下の客層は裕福な平民から貴族のために、品々はどこも高いのだ。


「何か見たいものなどがあれば」

「城下の食べ物に興味があるのですが、朝食はお済みですか?」

「いえ、まだです」

「ではあのお店に行っても?」

「もちろんです」


 時刻は8時を過ぎているが、今日の朝は本当にバタバタとしてしまった為に朝食を抜いたのである。もちろんラナには怒られたが。


 レイノルト様が示したのはカフェのようなお店だった。店に入り案内された席に着くとメニューを開いた。


「シアは何にしますか」

「フレンチトーストにします」

「即決ですね」

「ここのフレンチトーストは美味しいと有名なんですよ」

「そうなんですか、では同じものを」

(それに比較的安いんですよ!)


 日々素通りしかしていないが、所々の有名品だけは知っている。その上昨夜少し調べてきたこともあるので、ある程度なら対応できる気がする。


 注文を待つ間、あの日についての話を始めた。


「それにしても驚きました。食堂で貴女を見つけた時は」

「一応かつらで髪色を変えてたのですけど、そんなにわかりやすかったですか」

「夜会から日が経っていなかった事もあり、鮮明に顔を覚えていたもので。普通ならば気付かないと思いますよ」

「それなら安心します」

(是非その普通に入っていて欲しかったです)


「ちなみにレイは何故視察に?」

「あくまで私は友人の付き添いです」

「そうだったんですか」


 話を聞けば、レイノルト様の友人が貿易関係の仕事を勤めているようで、今回は緑茶を主な取り引き物として交渉しにセシティスタへ来たのだとか。

 

「他にも用件はありましたが、最近は取り引きが主な仕事ですね」

「大変なんですね」

「交渉にはなれています。それに、むしろそれ目的で連れ回されていますから」

「お疲れ様です」

(飛び回ってるのか、凄い)


 フレンチトーストが運ばれてくるまで、レイノルト様のここ数日の仕事に関する雑談が続いた。話し方が上手なもので、とても面白いものだった。交渉で連れ回す友人の気持ちに納得した。

 

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