機神、惑星ヘブンに立つ 16

16.対等


 トッパとスパパイドンがこの場を離れてそれからのこと。

「行ったか。それじゃ逢世さん、そろそろ喋ってもらってもいいですかね?」

「貴様何を言って---------なんだどういうことだ!?」

 オーゼの声が消える。聞き慣れた女性の声が聞こえる。

「はあ、バレてしまったか。でもよく気がついたね。私がこいつを抑え込めるようになったの」

 どうやら極盛逢世はややこしいらしい。あのオーゼは彼女の身体を乗っ取ったかに思えていたが実際は違う。

 二人は完全に分離した。お互いの精神が拮抗するようになったのだ。

「落ちついたあなたと話せるのは久しぶりだけど、時間がない。単刀直入に聞く。逢世さん、あなた?」

「そうだねえ。多分君と同じくらいじゃないかな?でも答えは君と違う」

「へえ?じゃあ?」

「戦うしかないねえ」

 そうして二つの機体はぶつかり合う。戦いの火蓋が落とされた。


***********


 不利なのは一久だった。逢世のエボシに比べて、デサラは機体としての世代が古いのだ。それにパイロットとしての腕が全くと言っていいほどに足りていない。

 だがそれすらもひっくり返せる力が、調和があった。


 発動「秘密の隠し味」


 それは機体の存在そのものを消すという反則に近い能力。例え目の前にあったとしても、誰も彼を認識できない。

「消えた?」

 逢世が言葉を漏らす。その次の瞬間!背後から鈍い衝撃が!

 背後から蹴りをお見舞いした一久。近距離では火器を一切使用していない。

「なんだい?優しさのつもりかい?私は君の大事なおじいさんを殺したんだよ?もっと色々あるだろうが!」

 声を発せば位置がバレる。そういうわけでもないが、一久は何も返さない。

 ただ黙々と攻撃を続ける。その様は一方的であった。だが....。

「ふう。甘いねえ!甘いよ甘すぎる!さっさと決めちまえばいいのに」

 次の瞬間である!地面から大量の腕が生えてきた!これはエボシの腕だ!

「なんだと!まだいたのか!」

「ふーん。そこか」 

 砲撃が当たる。ついに居場所がバレた。そう、無数の腕は無作為に足を掴むためのもの。

 彼女は残骸の腕だけ動かしているのだ。

「んな馬鹿な!?」

「だが事実だ」

 しかし彼女も彼にトドメを刺す気配はない。

「なあイッキュウ。私はね、君がほしいんだ。君が私の答えには必要なんだ。だから大人しく機神と一緒に来てくれないかい?」

「悪いけど、あなたが言ったんだ。答えが違うって。だから無理だ。やれ、バリゴルン」

「了解だよ一久」

 いつのまに戻ってきていたのだろうか。そこには彼女がお目当てのものが揃っていた。

 そして次には機体ごと吹っ飛ばされた。残骸たちがより一層あたり一面に散らばる。

 力の差は歴然だった。これは手が出せない。この二人の組み合わせは敵対している今、最も欲しくないものだった。

「じいさんのことは恨んでないから安心してほしい。でも俺の答えは違う。聞いた感じ不可欠でもなさそうだしお互い邪魔しない方向でいけないのか?」

 彼女は思った。オーゼに交代したとしてもこれはどうしようもないだろうと。引き下がるしかなかった。

 まあいい。そうだ。必要だが不可欠じゃない。まだ方法はいくつかある。オーゼだって利用すればいい。

「わかった。私の負けだ。大人しく帰らせてもらうよ。それでいいだろバリゴルン?少しズレたが打ち合わせのとおりのはずだ」

「そうだな。そういうことにしておいてやろう」

 あまりいい雰囲気ではなかった。むしろまた戦いが始まるかのような緊張感。

「もういいだろ。さっさと準備しようバリゴルン。時間がないんだ。トッパが戻り次第始めるぞ。あと危ないから逢世さんも帰ってくれないか」

「そうさせてもらうよ。ああ、あとトッパに言っておいてくれ。害虫駆除、ご苦労だったとね」

 そうして彼女は去っていく。

「さよなら。逢世さん」

 一久は小さな声で、ただ一言。離れていく背中に向かって呟いていた。

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