機神、惑星ヘブンに立つ 9

9.秘密は誰でも


 夢を見た。先生の夢。

 夢の中の先生はひどく慌てていた。後退りしていた。逃げようとしていた。

 視界の隅に光るものが見える。これは?

(ナイフ?)

 どういう状況だろうか。暗くてよくわからない。

 急に顔が近くなる。

 あ、刺したのか。先生を?誰が?私が?

 先生は笑っていた。温かな笑顔だった。まるで全てを受け入れるような。

 動く。体が動く。私の意志で。手には血がべったり。明かりが欲しい。光が差し込む窓に向かう。

 ああ、やはりと言うべきか、そこには私が写っていた。


**********


 あれ?わたしはなにをやってたんだろうか。意識がぼうっとする。ここはどこだ?

「目が覚めたか」

 目の前には緑色のロボットがいた。

「あなたは?」

「ワタシの名はバリゴルン。君の恩師の知り合いだ。安心してほしい。危害を加えるつもりはない」

 先生は顔が広いな。人じゃないものの知り合いもいるのか。でもなぜ私は椅子に座って訳のわからないものと対峙しているんだろうか。

「単刀直入に言おう。君の中には何かがいる。そしてそれはとても危険なやつだ」

 私の中?何かがいる?そんな馬鹿な話があるものか。

 だが思い当たる節がいくつかある。そもそも今の状況だっておかしい。私には島に入ってからの意識が曖昧だ。

 それにあの夢。やけにリアルだったあの夢はもしかして…。

 でもあんなのはもはや私がやったようなものではないか。ならば受け止めるしかない。

「そうか、やはりな。薄々そんな気がしていたのだ」

「自覚はあった、と言うことか。あと出来ればワタシに百丸の生死に関しても教えて欲しい。答えられるか?」

 今一番答えにくいことだなそれは。だが私はもう決めているのだ。

「ああ、先生は死んだ。私が遺書を持っている。だがどうにも私が先生を殺したそうだ」

「それは違う。君の中にいるやつの仕業だ。君が殺したわけではない」

「違うことなど何もない!その何かがどうであれ、私は私だ!どんなことでも私の行いなのだ。例え先生がそれによって殺されたのだとしても、それを行ったのは私だ!だから私が先生を殺した。それが事実なんだ!」

「いや違う。君は今恐れている。そして楽になりたいとも思っている。ワタシにはそう見えるが?どうだろうか。当たっているかね?」

 私が?恐れる?なにを?なぜそう思う?意味が、意味が全くわからない。

「その遺書の中身。どうやら研究所を壊しワタシやトッパの証拠を消すのが彼の目的だったようだな。だが君は百丸の要望とはいえ心苦しかったんじゃないのか?その百丸の殺害に自分が関与していたことの恐怖。そしてそれを忘れるためにより強い恐怖、そうだな、例えば一久からの復讐でも考えているんじゃないのか?だがそんなものは無駄だぞ。余計に苦しくなるだけだ。楽にはなれない。これは受け売りだが、恐怖を塗りつぶすのは恐怖だが乗り越えるのは勇気、だそうだぞ」

 いつか先生が言ってた言葉だ。

 でも私が一久に怯えている?いやまさか。たしかに彼に報復されるのは流れ的に至極当然。だからと言って恐怖などあるわけがない。そうだ。ない、ないはずなのだ。

 でも体は震えていた。怖い。彼に、一久に知られたくない。だが話さなくてはならない。彼から家族を奪ってしまったのは私だ。その責任を取らなくては。そうでなければ年長者の面目が立たないのだ。

「考え込んでいるところ悪いのだが、あまり深く考えるな。黙っていたって構わない。彼なら自分で答えに辿り着く。君がしたことではないことぐらいわかるさ」

 本当だろうか?だが黙っておくなんてそれこそ良くないことだ。

「一久は君が操られていた時、やつにかなり怒りを抱いていた。だから大丈夫、心配しなくていい。分かってくれるさ。それに誰にだって秘密はある。ワタシにもトッパ、今唯一の仲間だが、そんな彼に対してもずっと黙っていることがある」

 このロボット、思ったよりもなにを考えているのか全く読めない。ふざけているのか真面目なのかわからないな。でも。

「本当に・・・・・、それでいいのだろうか?だがやはり私が原因で厄介なことになっているならばやはり私が終わらせるべきだ」

「それは責任か?」

「そうだ」

「ならワタシに考えがある。この厄介ごとを終わらせる方法だ。それにうまくいけば君の中にいるやつを追い出すことができるかもしれない」

「それはとてもありがたい。だがそのやつとやらは追い出さなくていい。先生の言葉、ありがとう。私は私でケリをつけるよ。あともう一つわかったよ。謝っておいて欲しい相手って君たちのことだったんだね」

「君たち?今ここにはワタシしかいないが・・・・」

「そのトッパとやら、どうもさっきからずっと話を聞いてたみたいだよ」

 洞穴の入り口を見る。ずっと身を潜めて様子窺っていたようだ。

 出てきていい雰囲気だと気づいた様子だ。その小さな体からは異常なほどの怒りが噴き出している。

「バルゴルン、さっきの話だが、聞き間違いじゃなかったらその秘密とやらをきっちり説明してもらえないかい?」

 やはりとてもお怒りの様子であった。

 

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