機神、惑星ヘブンに立つ 8
8.そして動き出す2
洞穴から出る。また走る。でも納得がいかない。あれだけの力を使えるのに、あんなやつどうにでも出来るのになぜそれを使わないのだ。
「こんなこと言いたくないが、一久、お前、なにがあった」
なにがあったとはなんだ?どういうことだ?
「機神に触ればいいと言ったのは私だ。だがここまで変わるものなのか?君は私たちに協力的でなかったじゃないか?」
「お前は自分で言ったことを忘れてるぞ。じいさんの悲願ってやつだ。それにバリゴルンには救われて欲しい。それだけだ」
そうそれだけなのだ。あんなもの見せられてなにもしない方がおかしい。じいさんだってあれを知ったからバリゴルンを動けるように改造したんだ。それに…。
「お前はバリゴルンのおかげで生きていられるはずだ。だからあいつのために俺を呼んだ。そうなんだろ?」
「確かにそうだ。君の言っていることは正しいし嬉しい。だがなお前はそれを通り越した!いいか!あれは手段だ!バリゴルン自身が帰るために取った手段なんだ!なのに、あの場で君はなにをしようとした!君は自分のために彼を使おうとしなかったか?機神に乗ることが目的になっていたんじゃないか?乗ればなんとかなると思ったんだろ?」
乗ることが目的じゃ駄目?なにを言っているんだこいつは。
「はあ。今の君にはなにを言っても無駄そうだな…。そうだ、機神にはどうしようもないデメリットがあることは知っているか?」
「デメリット?」
「私も百丸から聞いた話だが世界には修正する力があるそうだ」
なんだそれは?それは今する話なのか?
「どうやら知らない感じか。いいか世界には異物を取り除く免疫機能みたいなものがある。本来私たちはこの島ごとその異物にあたるんだ」
「それを誤魔化すためにバリゴルンは機神になったんだろ?見たからそこの部分はわかる」
「そうだ。機神の持つ『世界』の力で修正力を跳ね返しているんだ。だがここからが重要だ。機神の内部、つまり彼の内側は別の世界、今度は機神の適合者が異物になってその修正力の対象となり最悪存在そのものが消えてしまうんだよ」
それも知っている。見たのだから。だが俺なら大丈夫なんだろう?それをお前たちはわかっていたんだろ?
「君は今、自分は大丈夫だと思っているのだろ?なら教えてほしい。”君自身は本当に大丈夫な理由がわかっているのか?“」
はっとした。立ち止まってしまった。そうだ。俺はなにもわかっていなかった。わかった気になっていた。
結局のところ俺が見たものはバリゴルンのメモリーだった。人間の一般人に考えつかないようなものを彼が持っていたというだけ。
なら反対に彼は俺のなにを見たのだろうか。その中に俺を乗せなかった理由があるのか?
だが立ち止まっている暇はなかった。エボシが追ってくるのが見える。逃げなくては殺される。
俺はなにもできないただの人間・・・・・。
「落ち込むな!いいか君は少し勘違いしていただけだ!だがあいつ、オーゼも何か君に期待しているみたいだった。それは裏返せば価値があるってことだ!自信を持て!あと着いたぞ。これが脱出用のポッドだ!」
尻を思い切り銃で叩かれた。どこから取り出したんだそれ。しかも二丁も。
トッパは臨戦態勢だ。戦う気なのか?無理だ。体格に差がありすぎる!
「トッパ、逃げよう!無理だ。相手はアームヘッドだぞ!」
「お前も忘れてないか?私はこの島から出られないってことを・・・・」
そうだった。すっかり前の駄目な俺に元通り。
「だから落ち込むなって。でもさっきに比べたら今の方がずっと君らしいよ」
俺を平常運転にするために話してたのか。思えば助けられてばかりだ。でもよ。
「俺にどうしろって言うんだよ?」
「実は私も知らないことがたくさんある。それを君の目で確かめろ!と言いたいところだが、どっちでもいい。あとは自分で決めてくれ。この段階で言うのもあれだが、巻き込んでしまってすまなかった。じゃあ、元気でな!」
ポッドに向かって蹴り飛ばされる。自動でシートベルトが巻かれ、ドアが閉まる。すると次の瞬間ポッドは空高く打ち上げられた!
「おい!ふざけんなよこれ飛ぶやつなのかよぉぉぉぉォォォォぉぉ!!!!!!」
備え付けられた小さな窓から地上を見るも、ただでさえ小さいトッパがあっという間に米粒に。
そして、落ちた。
場所は本土、そこはかつてじいさんの研究所があった場所だった。
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