機神、惑星ヘブンに立つ 2

2.未明島へ

 

 ある日わたしの元に一通の手紙が届いた。それは恩師である石田百丸の遺書だった。

 あの人はわたしにとって親みたいな存在だったから、とても辛かった。

 今でこそ自分の研究所を持っているけれども、幼い頃から類稀なる才能を発揮して、飛び級までして大学に入ったわたしには、仲間なんていなかった。

 そんな中、百丸先生だけが唯一わたしを気にかけてくれたのだ。

 急に大学を辞めた時はほんとに驚いたけれど、先生のおかげでわたしの、極盛逢世ごくもりあわせの今があると言っても過言ではない。だから先生の頼みなら結構聞いた。

 先生の孫のめんどうを見たり、島を買い取るための資金提供をしたり色々した。

 そうだ、それで思い出した。イッキュウはどうしているのだろうか。高校に入ったとは聞いたが、あいつは確か今までほとんど学校というものに行ったことがなかったはずだ。 

 少し心配な気もするがまあわりとどうにでもなるか。わたしのときよりはましだろう。

 だがもう一つ、気になることがある。

 遺書に書かれた最後の内容。それは「島の研究所を破壊して欲しい」ということと「すまないと伝えてくれ」という要望だった。

 どういうことだ。一つ目はまだわかる。でも二つ目がわからない。誰に伝えるのだろうか?イッキュウにだろうか。だが島は、正確には管理者としてはあいつのものになるはずだ。そうなるとあいつに研究所を残したくない理由でもあるのだろうか。

 とても気になるところだけれども、これが先生の最後の要望ならば、わたしがやるしかない。

 早速島に連れて行くメンバーの選考やアームヘッドを用意をしなくてはな。

 そうしてわたしは未明島へと向かうことを決めたのだった。


**********


 極盛研究所の船は行く。実はわたしは今まで島に行ったことがないのだ。資金提供者でもあるのに、先生は私を島に入れてくれなかった。だがそれはイッキュウも同じだったはず。

 そもそもこの島は先生と私だけじゃなく、『転王輪財閥』も資金提供してくれたことで買い取ることが出来たのだ。

 表向きはいい顔してるが、良くない噂も多い。だから遺産として彼に島が残ったとしても後々厄介になりそうだ。そうなるとやはり彼が島に入る前に研究所を壊しておいた方がいいのかも知れない。

 それも含めて破壊と謝罪のお願いなのだろうか。

 そんなことを船頭で考え込んでいるわたしに所員が話しかけてきた。

「所長、もうすぐ未明島に到着します。エボシの方も用意は出来てますが…、本当にやるんですか?」

 今日だけで三回もそれを聞かれている。いい加減その質問には飽きてきた。

「あのさあ、それ聞かないでくれないか?やると決めたらやるんだよ。だって他ならぬ先生の頼みだからね」

「そうですか。では承知しました」

 そう言って彼は立ち去っていった。ちょっとしょんぼりしてるなあ。思えばちょっと口が悪くなってしまっていたかもしれない。気をつけないとね。

 だが、それはそれとして気を引き締めないと。なにせ地図がないのだ。研究所がどこにあるかもわからない。

 それに先生が言っていた。あの島は別世界のものだと。だから何が起こるのかもわからない。そう言った意味でもアームヘッドは必要不可欠だ。

 やりすぎなんてものはない。これはしなければならないこと。

 なぜか言い訳のような言葉が浮かぶ。後ろめたい思いもある。だが言ったのだ。決めたのだ。

「未明島、到着しました」

 そうか着いたのか。

「さあ、やってしまおうか!」

 わたしや所員たちはエボシに乗り、未明島へと一歩踏み出した。

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