機神、惑星ヘブンに立つ 1

1.上陸、未明島

 

 高校二回目の修了式も終わったから、寮の自室でダラダラ過ごす。俺は何もすることがなく、とにかく暇を持て余し、この暇で心を押しつぶすのだろうなと考えていた。

「ああ。暇だなぁ。なんかねえかなあ楽しいこと」

「なら部屋を片付けたらどうだ?」

突如として部屋に響く声。急なことに驚いてお茶が変なところに入ってしまった。しばらく咳き込んだ後、誰だこんな目に合わせた奴は!と思いながら後ろを振り向いた。

「なんだ、寮長か。びっくりしたぁ。ていうか勝手に部屋に入らないでくださいよ。プライバシーの侵害ですよ?」

「なんだとはなんだ?長期休暇は普通家に帰るもんだろうが?なのにお前ときたら毎回毎回ずっと居座りやがって。私の仕事が増えるじゃないか!そういうことするやつに文句を言われたくはないな」

 そうなのだ。俺は高校に入ってから家に帰ったことがない。いや正確には「帰ってくるな」といわれているのだ。

 だから、まあ仕方なくない?

「いやでも一応家の都合なんでそこは許してくださいよ。ほらいつもみたいに?」

「わかっているよ。だがな石田、お前に用が合るからわざわざ部屋までやってきたやったんだよ。ほら、手紙だ。受け取れ」

 投げ渡された手紙。その中身は俺の祖父、石田百丸が亡くなったこと。

 そして、じいさんの所有物である『未明島』へ来るようにというものだった。

 軽そうな見た目に反してそれはとても重たかった。

「こんな大事な手紙なら、投げないでくださいよ」

「すまんなあ。私は中身を見ることは出来ないんで分からなかったんだよ。それに、それこそお前の言うプライバシーの侵害ってもんだろ?」

 なんだろう、微妙に言い返しにくいな。まあいいか。いいのかな?

「寮長、とりあえず俺、しばらく出かけてきます」

 この手紙が本当なら、俺は行かなきゃいけない。

 じいさんは俺にとってたった一人の血縁者なんだから。

 それに本当なのかどうかも確かめないといけないからだ。

 そんな考える俺を見ていたからだろうか。

「なんだ。帰る気にでもなったのか?とでも茶化したいところだが。顔を見たらわかる。何かあったんだな。ああ、行ってこい。だが帰ってきたら部屋、片づけてくれよ」

 どうやら送り出してくれているらしい。だったらすることは決まりだ。

 必要なものだけ持ってさっさと扉の前に行く。

 なぜならちょっと気まずさがあるから。あとほんとに片づけた方がいいかもな。ちょっと準備に手間取った。

「じゃあ、行ってきます」

「おう、行ってこい!」

 じいさんのことは気がかりだ。でも、すこしだけ心は軽かった。


**********


 未明島はだいたい20年くらい前に大御蓮帝国領海内にいきなりあらわれた島だ。

 島がいきなり現われるなんてこと、おかしな話だが事実だ。その時のことを見た人が言うには、その島は空から降ってきたらしい。

 じいさんは昔調査のために上陸して、そのあと何をしたのかは知らないけど、いきなり島の所有権をもぎ取ってきた。

 あんなでかい島、どうやって買い取ったのだろうか。とても疑問だけど今は別の問題がある。

 それは、どうやって島に行くかだ。

 行くと決めたはいいものの、こちとら学生である。船なんか持っているわけがない。どうしろと言うのだ。

 こうなったら仕方がない。あいつに頼むとしよう。嫌だけど。

 渋々電話をかける。ほんと、後輩に頼み事はしたくなかったんだがな。

「あ、もしもし?王叶さん?ちょっと頼みたいことあるんですけど・・・・」


**********


 結果としてなんとかなった。あいつに、等式理王叶ひとしきりおうかに借りを作ってしまったのが癪だが、俺にはそれ以外選択肢がなかった。それだけのことである。本当に仕方がない。

 じいさんは俺を一度も島に入れてくれなかった。だから今回が初めての上陸だ。手紙にはご丁寧に島の地図までついていた。これで船まで用意してくれたら言うことはなしなんだけどなあ。

「にしても未明島、かなりでかいな。本当にじいさんはこの島を一人で買ったのか?」

 地図に書かれた目的地までかなり遠かった。周りに人もいないから独り言も増える。あと思ったよりも研究所高いところにあるんだなあとか、そんなことを考えているうちについてしまった。

 

 扉に手をかける。鍵はかかっていなかった。でも扉重く、開けると軋むような音をたてた。

 しばらく中を探索する。研究所はもぬけの殻だった。当たり前か。そもそも島に人がいなかったんだから。そこにはさみしさだけが漂っていた。

 でもそれは人がいないからじゃなさそうだ。多分元からこういう感じだったのかもしれない。


「新しい研究所が欲しかったから」


 じいさんが島を買い取ったときにそんなことを言ってたのを思い出した。

 そうだ、もともと研究所は本土にあった。でも無くなったんだった。

 あれ?なんでだっけ? たしか俺がもっと小さいころはあったはず。

 昔のことがあまり思い出せない。思い出そうとすると頭が痛くなる。

 わからない。なにもわからない。そんな負のスパイラルにおぼれそうになる。

 

 だが突如として研究所に轟音が響いた!

 急に現実へと引き戻され、状況を確認するために扉へと急ぐ。

 すぐに音の正体は分かった。アームヘッドだ。

「あれは、たしか逢世さんとこのエボシ!?」

 カタログで見たからわかる。でも、なんで逢世さんが島を攻撃しているんだ?あの人がこんなことする意味が分からない。

 混乱している俺に、後ろから声がかけられた。

「よく来たな一久。君を待っていた」

 多分初めて会うやつだと思う。でもそれは聞き覚えのあるような声だった。



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