第2話
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さて。
ひとまずは私のいる孤児院。
エイプリール国立孤児院について話しておこう。
エイプリール国立孤児院とは私が産まれた国、エイプリール国が運営している孤児院であり、その規模は非常にデカく、なんなら街一つ分あるんじゃないか?というほどに巨大な敷地に並び立つ建物を指す。
いや、流石に街一つ分は大袈裟に言い過ぎたかもしれない。
しかし、この孤児院に来て一年が経過しているが、どれほどの広さがあるか未だに把握しきれていないくらいには巨大な孤児院である。
なぜたかだか孤児院がここまで巨大になったかと言えば、エイプリール国の大雑把で効率的に孤児の保護をやろうとした国側の雑な方針が原因である。
その方針とはずばり、孤児となった子供たちを全国各地から一ヶ所に集めてまとめて保護とついでに教育しちゃおうと考えてのことらしい。
して、そんな孤児院になぜ私がいるのかと言えば結論から言えば、転生者だったからである。
私は貴族の家に生まれた。
当初は異世界転生に戸惑い、しかし戸惑いながらも転生を受け入れ、身の振り方を考えていた矢先に魔法を知り、それどころか異星だか異世界だかにいることを知った私は貴族に産まれた「上流階級スタート」に喜んだ。
色々な意味でやりやすいだろうと考えたからである。
しかも、その位は地球で言う公爵家なみ。
王様の次に偉い、なんなら王族の血筋なんかも混ざってる家であったため、ワンチャン王様を目指せるくらいに権威とともに権力があり、納める領地も広く、広い分金持ちでもあった私の実家はしかしあっさりと私を捨てた。
いや、もちろん転生したことを言ったわけではない。
言えるわけがない。
逆の立場なら分かるはずだ。
我が子の中身がどこぞの馬の骨など、気持ち悪いにも程があろう。
実質、いきなり見ず知らずの他人の面倒を見なくてはならなくなったようなものだ。
色々な意味できつい。
少なくとも私は我が子が転生者で中身がおっさんおばさん、ないしはすでに中高生並みの人格を有しています、なんて無理だ。
うまく接していける気がしない。
気付かずに10年、20年過ごしてからならばまだ家族として見れるかもしれないが…だからこそ私は演技をした。
子供らしい演技を。
しかし、私が孤児院にいる今、結果がどうなったかは分かりきっている。
産まれて間もない時期にバレたらどうなるか。
言うまでもなく、我が身に降りかかった現状がそれだ。
そら、捨てるよねって。
なんならわざわざ孤児院に送りつけただけでもだいぶ優しいと思う。
私に俳優の才能はない。
つまりはそう言うことだ。
「父よ、今日こそ魔法を教えて頂きたく」
「とにかくだめなものはだめ!怪我したらどうするの!」
そんな経緯を経てこの孤児院にやってきた私としては、まがりなりにも真っ当に接してくれてる院長を困らせたくはない。
ゆえにこそ聞き分け良く、彼を手伝う良い子ちゃんの私であるがしかし。
魔法に関しては別である。
どうやら私の我儘は聞き入れてもらえないようだ。
やはり今日もダメか。まあ、今のところは別に構わないのだが。
なぜならば…
すでに魔法が使えるからである。
なまじ魔法のない世界にいた人間なだけに体の中にある魔法を使うための燃料、前世の漫画やアニメになぞり分かりやすくいうのであれば魔力的な何かを意識するまでもなく知覚し…というか違和感をを感じてイライラするくらいにははっきりと感じとれた結果、まああっさりと魔法は使えた。
炎やら水やらとまあ一般的に想像される魔法は概ね使えると思ってもらって構わない。
となれば、なぜまたわざわざ教えを請おうとしたかと質問したくなるはず。
答えはもちろん私の夢である右腕を疼かせるソレをしたいからだ。
多分私の考えるソレは普通の…それこそ炎を出すのとはまるで違う魔法系統、形質を持つもののはず。
しっかりとした魔法理論を学んだ上で今から励んでいきたいと考えたのである。
ああ、そうそう。
念のために右腕を疼かせるとはなんぞやという人へ向けて軽く解説しておこう。
右腕が…疼く!?とは前世で見た漫画にありがち…と思いきや割と少ない名場面のことを指している。
主人公、ないしは主要なキャラクターが右腕、場合によっては別の部位に化け物だったり何かしらの力の塊を封印、というか閉じ込めるというか、そうして封印した『何かが』外に漏れる、ないしは出ようとするたびに腕が疼くと言い出す、ないしはそれっぽい言葉を使うのだが、それを私は本気でカッコいいと思い、憧れていた。
もちろんこんな話を前世ですれば正気を疑われるだろう。私とて、それは理解しているし、地球にいた私であればこんなこと本気で目指すわけがない。
しかしここは魔法ありきの異世界。
それが現実にあってもおかしくはない、ないとしても何かの魔法技術で再現できるのではないかと考えたのだ。
ふ。皆まで言うな。
少し考える頭がある人ならばすぐに気づくはず。
漫画ならばともかく現実でそんなことを言い出すのは変だと。
フィクションに過ぎないだろうと言う根本的な正論は地球じゃないからと言う事実からさておいたとしても、まず、化け物を封印すると言うがそんな余剰スペースが人体には存在しない。
いや、実態のないスピリット的な化け物なればと、だがしかし、実体のない存在ならばなおさら右腕に封じ込めるなんてできない、お前の右腕は実体のない化け物を収穫する虫籠みたいな機能がついているのか?と疑問に思うことだろう。
もちろん異世界に生まれたからと言って、そんなビックリドッキリ機能なんてのもついていない。
仮に。
そう、仮に100万歩譲ってソレを可能とした場合であってもわざわざ体に化け物だのを仕込む意味が分からないし、外に漏れ出したりするのであれば尚更、意味がわからない、危険なだけと思うことだろう。
口ぶりから察するにそのせいで腕が疼くと言うのであれば尚更のこと。
実際にどうなるかは分からないが、下手をすれば四六時中、腕が疼くことになる。
寝れなくなるんじゃね?
寝れたとしても寝てる間に腕から化け物が出てきて寝込みを襲われて死ぬと言う可能性もあるし、なんなら右腕を疼かせるだけの魔法を開発して、それを使って、お望みの言葉を言えば良い。
でも、そんなのただのごっこ遊びだよね!?
私は!私は、ごっこ遊びではなくて、本気の腕が疼くをやりたいのだ!
それが私のロマンであり、夢!
むしろ右腕の封印を破って化け物が暴れ回るとこまでがセット!!
そのためならば私はなんだってやってやろうではないか!!
我が野望は必ず遂げてみせる!
今に見ていろよ、中学時代、前世で右腕に包帯を巻いてきた私を馬鹿にした鈴木くんに、田中さん!
私はこの異界であの時の雪辱を晴らす!
惜しむらくは彼らとは会えないことだな!
ふーはっはっはっはっ!!君たちがちょっと羨ましそうに見ていたのを私は知っているぞ!!
「エコ、今はお昼寝タイムだよ。他の子が起きちゃうから、その子供らしくない高笑いをやめなさい」
ちちにちゅういされちゃった、よんさいのあるひのひるどきのはなしである。
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