第5話 隣に咲く花は綺麗5

 姉ちゃんの彼氏発表から数日たった水曜日の朝、起きると姉ちゃんがキッチンに立っていた。いつもならまだ寝てるのに。

「おはよう」

「おう」

 姉ちゃんの横を通り過ぎ、食パンを一枚袋から取り出し、トースターに置く。

 

 テーブルの上にはお弁当用のおかずが入ったタッパーが並んでいる。母さんと姉ちゃんが休みの日に作り置きしているのだ。

 今週は、かぼちゃの煮つけ、筑前煮、焼き鮭、ピーマンの肉詰め……。からあげは昨日の晩ご飯の残りだな。ソーセージとたまごやきは朝焼いたばかりで、まだ少し湯気がたっている。

 そしてお弁当箱が二つ。二つ? 母さんと父さんはもう出発したあとだ。このグレーのお弁当箱、初めて見る。俺が使ってたのじゃない。姉ちゃんのはその隣に置いてるピンクのだし。


「あのさぁ、俺、お弁当はいらないって……」

「これは違うよ!」

 姉ちゃんは慌てて否定する。それはそれでなんか心がチクチク痛む。

「姉ちゃん二つも持って行ってんの」

「そうじゃないよ。彼氏の分」

 また嫌なことを思い出させる。姉ちゃんは何も知らないはずなのに。


「毎週水曜日に君彦くんの分もお弁当作って持って行ってるの。今日は君彦くんと朝一緒に図書室行く約束してるから早めに用意してて……」

「手作りの弁当持って行くなんて、重い女じゃん」

 岸野が自虐的に言った言葉を思わず言ってしまった。後味が悪い。

「君彦くんが食べたいって言ってくれてるから、持って行くんだもん」

「そうやっておせっかいで、尽くす女もクソ重い」

 一瞬動きが止まったが、再び弁当におかずを詰め始める。

「お姉ちゃんはすぐにおせっかいしちゃうし、好きな人に一生懸命になりすぎて、何も見えなくなる方だと思う。でも、そんなわたしを、君彦くんは受け止めるって言ってくれたから」

 そう言って姉ちゃんは笑顔をこちらに向ける。

 なんだよ。余裕のある顔、腹立つ。


 それ以上何も言わず、ポットに入っていた湯でコーヒーを溶かす。スプーンでぐるぐるとかき回して飲む。あったかい飲み物を体が欲するようになってきた。


 文化祭の日よりもぐっと寒くなったと感じる。

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