彼と一緒です
ひんやりした感触を額に感じ、薄く瞼をあげた。
薄暗くてよく見えない。頭を少し横に傾けると、心配そうに私を覗き込む蓮司が視界に入った。
「起きたか」
「蓮くん…私…?ここ…」
「俺の部屋。覚えてない?お前、さっき倒れこんだ後、ここに転移したんだぞ」
まじか。私、意識失いかけても力使えるのか。
「ご、ごめんね。勝手に上がり込んで…ベッドまで…」
いつものことだけど…。
「いつものことだろ…。まあいい。無意識でも俺の部屋に来るなんて、紗奈々は俺のことが大好きだな?」
楽しげに私を見下ろし、手に空のグラスを持ってすっと立ち上がる。
はしっ
気づくと私は蓮司の服の裾を掴んでいた。
「あ…。な、なんでもないの」
「…珍しい。もしかしてまだ水が足りないのか?さっきたくさん飲ませたんだが」
「えっ?ど、どうやって」
「どうって…。こうやって」
蓮司は私の頭の横に腕をついて、真っ直ぐ見下ろした。
髪、さらさらだな。睫毛も長くて綺麗。瞳に私が写っている…。
顎をくいと掴まれて、我に帰った。
いけない。
「り、梨華さん!さっき会ってきたの!」
「あ?…ああ、行くなら事前に言えよ。一人で行くなんて危ないだろ」
「あ、うん、それは本当にごめんなさい。来てくれてありがとう…」
「心配した。梨華さんに聞いて急いで来てよかったよ。今度からは気をつけろよ」
梨華さんと連絡取ってたんだ。
やっぱり二人は…。
「蓮くん、離れて…」
「いやだ、この体勢楽しい。紗奈々の困ってる顔、よく見えるし」
なんて意地悪なんだ。
ではなくて。
「あの、梨華さん、嫌がると思うの…。もう私、勝手に蓮くんの部屋はいらないから。本当だよ」
「なんで梨華さん?関係ない」
「だって、二人はもうすぐ結婚するんでしょう?カタログ…」
蓮司がはっと息を呑んだ。心なしか頬が赤い。
本当にそうなんだ。
心がずっしりと鉛のように重くなった。
もう認めるしかないんだ。
私、蓮司が好きだ。
蓮司とずっと、これからも一緒にいるのは自分がよかった。
私は震える声を抑えて、蓮司の腕をどけながら言った。
「気付かなくてごめんね。おめでとう、蓮くん」
「…っ違う!あれはお前に渡すためのものだ!」
えっ…?
私は思わずぴたりと動きを止めてしまった。
「前に理華さんが店に来た時、どんな婚約指輪だったら紗奈々が喜びそうか、相談したんだ。次にレンタル品返しに来る時に、こっそりカタログを受け取って見せてもらうつもりだった」
「で、でも…私たちまだ付き合ってない。普通って恋人になってから結婚するんだよね…?」
ぐっと押し黙った蓮司は、身体を起こしてベッドに座り込んだ。
髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜ応えてくれる。
「俺たち、ずっと一緒にいただろ。なんか今更付き合おうって言ったって、お前に意識してもらえないかと思った」
俺はずっと紗奈々のことを女としてみてたけど。
小声の呟きを拾ってしまって、私の心臓がうるさく音を立て始めた。
嘘…。
ちらりと蓮司の方をみた。
彼の乱れた髪が気になる…。
手を伸ばしてそっと髪を梳く。
垂れた前髪の間から、蓮司の熱い瞳が表れて、私は息を止めた。
手首を掴まれて、整った顔がゆっくりと近づいてくる。
好き…。
心の中でつぶやいて、目を閉じて彼のくちびるを受け止め……あれ?
薄く目を開くと、蓮司が鼻の頭が触れそうな距離で私を見つめていた。
「キス、していいんだ?」
「なっ…」
「紗奈々のキス待ち顔、初めて見た」
そりゃそうでしょ。ファーストキスだもの!
相変わらずの意地悪にちょっとむかっとして反論する。
「変な顔って言いた」
んむ。
柔らかいくちびるが私のくちびるを覆った。
離れる直前、ぎゅっと押しつけられて離れていく。
「……いんでしょ…」
「いや、可愛かったよ」
いつもとは違う、蕩けそうな甘い笑顔で微笑んでくる。
…蓮司、可愛い。
いつもは意地悪なのに。
「あー、それでさ…指輪、どんなのがいい?もうバレちまったし、教えてくれよ」
「あのね、私、指輪は自分で選びたい…かな」
「…そっか。お前、もう外に出れるもんな」
「まだまだだけど、少しずつ頑張りたいの…。また今日みたいに迷惑かけちゃうかもだけど」
「迷惑なんかじゃない。頼ってほしいしその方が嬉しい。俺もお前に頼ってるところあるし…」
「えっ、嘘!教えて」
「いやだ」
鼻をむぎゅっと摘まれた。
そして二人で顔を見合わせて、くすくすと笑い合った。
紗奈々、愛してる。
…私も。
ふわんと頭に声が響き、私も応えた。
蓮司にだけ、力が発動しなかった理由がなんとなくわかった気がする。
私たちはこれまでも、これからも、ずうっと一緒だ。
超能力者だけど彼のことだけ分かりません! 及川パセリ @pasepaseppp
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