第13話 言い方ぁ!

 


「…………」


「あの、なんで黙ってるんですか」


「いや、今更だが病人に根掘り葉掘り聞いてもいいものかとな」



 最初はこの機会に色々確認しておこうと思っていたが、それで病人を興奮させても問題だと思ったのである。



「……いいですよ。暇ですし、話している方が気がまぎれるんで」


「そうか。では、単刀直入に聞こう。柴咲さんは、屁を含む俺のニオイが好きなのか?」


「んなっ!? い、いきなりそういうこと聞くんですか!?」



 俺の質問に対し、柴咲さんが興奮気味に反応する。

 やはり、やめておいた方が良かっただろうか。



「嫌なら答えなくてもいい」


「……その言い方はズルいですよ」



 少なくとも彼女は、俺の屁の臭いを嗅ぎ分け、Yシャツをクンカクンカするくらいには俺のニオイに執着心がある。

 だから嫌っているということはないだろうが、それを肯定するのは女性でなくとも酷と言えるだろう。

 ただ、これまでの彼女の傾向から見て、困ったときはとりあえず拳に頼る癖がある。

 その拳が封じられている状況であれば、正直に話してくれるのではという打算があった。



「……私、ニオイに敏感だって言いましたよね」


「ああ」



 実際には臭いで屁の主を判別できるという情報しか聞いてないが、まあ似たようなものなので聞き流そう。



「実は、敏感っていうのはちょっとやそっとってレベルじゃなくて、ちょっとした特殊能力レベルというか……。共感覚ってわかりますか?」


「ほぅ、共感覚か。勿論知っている」



 俺も伊達に厨二病を拗らせてるワケではないので、共感覚については当然知っている。

 共感覚とは、1つの刺激に対して、通常の感覚だけでなく 異なる種類の感覚も自動的に生じる知覚現象のことだ。

 例えば、音、味、ニオイといった五感に色を感じ取ったり、文字や数字を擬人化して感じ取ったりと様々なパターンが存在する。



「知っているのなら話は早いんですが、私はニオイと一緒に情感みたいなのが感じ取れるんです」


「成程、それで俺の屁の臭いを嗅ぎ分けられたのか」


「……そうですが、嗅ぎ分けるって言うのやめてください。なんだか動物みたいなので」



 女心は難しいな。



「わかった。それで、俺の屁からはどんな情感を得られたんだ?」


「別にオナラに限った話じゃないんですが、その、心地良いというか、なんというか……」



 俺のYシャツをクンカクンカしながらウキウキしてたのはそれでか。



「ふむ。つまり、気持ちよくなっていたということか」


「言い方ぁ!」


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