第12話 ベッドに行こう

 


 体調不良でお休みした柴咲さんのお見舞いに来たら、正拳突きをお見舞いされた。

 先程まで呼吸困難に陥っていたが、今は落ち着いている。

 その正拳突きを放った柴咲さんは、白鳥さんに説教されてシュンとしていた。



「それで、体調の方は大丈夫なのか?」


「まだ少しフラフラしますが、一応熱は下がりました」


「本当か? まだ顔が赤く見えるが」


「そ、それは! ……大丈夫なやつです」



 何が大丈夫なやつなのかはわからないが、まあ単純に照れているのだろう。

 今のは俺もわかったうえで、ちょっとした意地悪のつもりで言っただけだ。

 ただ単に、反応が見たかったのである。



「あの、弁明させていただけますか?」


「どうぞ」


「最初は、ちゃんと処分するつもりだったんです。でも、その、私の中のもったいないお化けがにょきにょきとしてきまして……」


「そうか、もったいないお化けが出てきたなら仕方ないな」



 大分可愛い言い訳だが、こっちが事情を知っているのを説明するワケにもいかないので、乗っておくことにしよう。



「……すいません、嘘をつきました。本当は私欲のために自分のものにしようとしました」



 折角言い訳を聞き入れたのに、柴咲さんは自分からバラしてしまった。

 良心の呵責に苛まれたのかもしれない。

 こういうところも、柴咲さんの好ましい部分だ。



「私欲、か。白鳥さんすまない、少しの間、席を外してくれないか?」


「はい。では、私はお夕飯の材料を買ってきます」


「え? え? え?」



 聞き分けの良い白鳥さんがさっさと部屋を出ていき、その展開の早さについていけない柴咲さんがあたふたする。



「さて、柴咲さん。まずはベッドに行こうか」


「……え? ベッド!? って、な、何を言い出すんですか!?」


「自分で行かないなら無理やり連れて行くぞ」



 そう言って俺が近づくと柴咲さんが身構える。

 しかし、先程白鳥さんに説教された効果があったのか、攻撃は飛んでこなかった。



「ま、待って! まだ心の準備が!」



 ほとんど無抵抗の柴咲さんをお姫様抱っこし、ベッドに横たえる。

 そして布団を被せ、よしよしと頭を撫でた。



「病人は安静にしてなきゃダメだ」


「~~っ! 絶対わざとやってるでしょ!」


「まあな」



 柴咲さんはからかうと面白いし、可愛いからな。



「半分は冗談だが、安静にしろと言ったのは本音だ。抱えたとき、少し熱かったぞ。熱がぶり返したんじゃないのか?」



 俺がそう聞くと、柴咲さんはそっぽを向きながら「そういうことにしておく」と言った。


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