第7話 白鳥さんがポンコツ忍者だった件

 


 同僚の白鳥さんから食事に誘われホイホイついていったところ、あるじ様になって欲しいと頼まれた。

 全くもって意味不明である。



「あ、いきなりこんなこと言われても理解できないですよね。ちゃんと説明します」



 白鳥さんは先ほど注文したカルーアミルクを一口飲んでから、改めて口を開く。



「実は私、代々続く忍者の末裔なんです」


「ほう……」



 どう考えてもネタにしか思えないが、とりあえずそれっぽく相槌を打っておく。



「と言っても下忍なんですけどね。私はその中でも特にポンコツでして、中々仕事がもらえず、こうして表の世界で生きるしかありませんでした」



 まあ、少なくとも白鳥さんは性格やら雰囲気的にも忍者に向いているとは思えない。



「それでも、将来素敵な主様に仕えるという夢は捨てきれず、マッチングアプリなどで主様探しをしていたのですが、中々良い人は見つからず、日々を悶々と過ごしていたのです。……あなたに助けられた、あの時までは」



 昨今の忍者は、仕える主をマッチングアプリで探すものなのか……



「私の主様は、あなた以外あり得ません! だからお願いします。私の主様になってください!」



 そんなことを大きな声で言うものだから、他の客から奇異の目で見られてしまっている。

 俺としてはなんとなく面白いのでOKしたいところだが、ここで返事するのは世間的に不味い。



「……気持ちは嬉しいが、事が事だけに結論を急くべきではないんじゃないか?」


「いえ、ここ数日会社とプライベートの監視をさせていただきましたが、主としての資質は問題ありませんでした」


「主の資質……? いや、それよりもプライベートも監視って」


「忍者ですから、そのくらいのことはお手の物です」



 なんと、俺は知らず知らずのうちに監視されていたらしい。

 忍者恐るべし。気配を消せることといい、そろそろ信じても良い気がしてきた。



「……ん? それなら、柴咲さんとの食事のときも監視はしてなかったのか?」


「そ、そんな! できませんよ! その、もし男女の営みにまで至ったら、は、恥ずかしいじゃないですか……」



 成程。これはポンコツだ。

 恥ずかしがって監視ができないのではお話にならない。



「わかった。とりあえずこの件は保留とさせてくれ。俺にも心の準備が必要なのでな」


「わかり、ました。前向きに検討いただければ嬉しいです。……うぅ、緊張したらお腹が。ちょっとトイレに行ってきます」



 この忍者、胃腸も弱いらしい。

 あ、だからあのとき屁を……



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