第6話 白鳥さんの言ってることが理解できない

 



 最近俺は、同僚の柴咲さんのことを観察している。

 彼女はよく働き、表情も豊かなことから周囲の評判はかなり良い。

 惜しむらくは低身長なことと、童顔なことから下に見られがちということか。

 実力を正当に評価されないというのは、見ていて少しもどかしいものがある。


 それに、彼女は稀有な才能も持っている。

 鋭い嗅覚で、様々な臭いを嗅ぎ分ける特殊能力だ。

 彼女は、俺が白鳥さんの放屁を庇って屁をこいた際、その嗅覚で真実に辿り着いた。

 屁の臭いなど、体調や食事の内容によっても変わるものだが、それでも嗅ぎ分けられるというのは尋常ではない。

 まるでラノベのキャラのようだ。


 そんな彼女に興味を持ったからこそ、観察し、研究に励んでいるというワケである。

 その結果として判明したのは、やはり彼女は臭いフェチだということだ。

 違うと否定はしていたが、俺の目は誤魔化せない。



「あの……」


「っ! ああ、白鳥さんか」



 またしても、いつの間にか背後を取られていた。

 白鳥さんもまた、気配遮断という特殊能力の持ち主と思われる。



「最近、その、柴咲さんのこと、よく見てませんか?」


「ああ、彼女からは学ぶことが多くてね。参考にさせてもらっている」



 実際は少々違うが、誤解を招きそうなので無難な回答を選ぶ。



「……そう、ですよね。柴咲さんは、可愛いですもんね」



 ……何故そこで可愛いという単語が出てくるのだろうか。

 白鳥さんの思考回路が謎過ぎる。



「あの、今夜空いてますか?」







 白鳥さんと食事に来るのはこれで三度目だが、今日は何故か雰囲気が重い。

 暫く沈黙が続いたが、白鳥さんが意を決したような表情をして口を開く。



「ずっと、言えてなかったんですけど、やっぱりちゃんと言わなくちゃって思って」



 これは、まさか告白か?

 今までの人生で告白をされた経験はないので、流石の俺もドキドキする。



「この前は庇っていただき、ありがとうございました。私、恥ずかしくて、どうしてもお礼が言えなくて……」


「ん、ああ、なんだそのことか。いや、気にしないでくれ。あのときはアレがベストだと判断しただけだ」



 どうやら告白ではなかったらしい。

 まあ、人生などこんなものだ。



「私、嬉しかったんです。男の人に、あんな風に守られたの初めてだったから……」



 む、これはまだワンチャンあるか?



「それで、一度意識したら気持ちはどんどん膨らんで、もう抑えきれなくって……」



 来るか!?



「だから、その、私のあるじ様になってくれませんか?」



 ???

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