第5話 柴咲さんはやはり臭いフェチだった

 


 不幸なすれ違いから、俺は柴咲さんにボディブローを喰らうこととなった。ついでにその時屁も漏れた。

 あの一件以来柴咲さんからのお菓子の差し入れは頻度が減り、逆に種類は豊富になっている。

 芋系のお菓子が多かったのは、単純に彼女が俺と同じ芋好きだっただけらしい。



「……あの」


「っ! ん? ああ、白鳥さんか。どうしたんだ?」



 いつの間にか、背後に白鳥さんが立っていた。

 気配が全くなかったので、少々動揺する。



「その……、こ、この前、詩緒ちゃ……柴咲さんと、何があったんですか?」


「ああ、イイのを一発決められたよ」


「一発……!? それは、決めたのでは、なく……?」


「? ああ、とても鋭いボディブローだった。彼女は良いボクサーになれる」



 柴咲さんのボディブローは、女子とは思えない程の威力を秘めていた。

 位置関係上肝臓に直撃したため、本気で悶絶した。



「あ、柴咲さん、学生時代空手やってたみたいです」


「成程。それなら納得だ」



 昨今女子が強くなったと言われているので物理的にもそういう傾向にあるのかと思ったが、流石にそうではなかったらしい。



「それで、なんでそんなことに?」


「ああ、それは……」



 と、ありのまま内容を説明しようとして寸前で止まる。

 白鳥さん相手に屁の話題を蒸し返すのは、流石に躊躇われたからだ。



「彼女の名誉のために、それは言えない」


「そう、ですか……」



 俺がそう答えると、彼女はトボトボとした足取りで自席に戻る。

 それに入れ替わるかたちで柴咲さんが近づいてき、俺をオフィスの外に連れ出す。



「ちょっと、静香ちゃんに何言ったんですか」


「いや、二人の名誉のために何も言っていない」


「……どうやってそれを伝えたんですか?」


「? 普通に何も言えないと言ったが」


「はぁ……、それじゃ色々誤解されますよ」



 ならどうすれば良かったのか……



「まあ、この前のことについては私から説明しておきます」


「助かる。俺の口からは説明しにくいからな」



 柴咲さんは頼りになるな。

 そうだ、ついでに俺も気になることについて聞いておこう。



「なあ、柴咲さんは何故俺に接してくるようになったんだ?」


「それは……、静香ちゃんのこと庇ってくれたからですよ」


「っ!? 何故それを」


「言ったじゃないですか、私、臭いに敏感なんです」



 それはつまり、あの時彼女は屁の臭いを嗅ぎ分けていたということか。



「なんだ、やはり臭いフェチなのか」


「ふん!」



 俺がそう言った瞬間、強かに足を踏みぬかれた。

 解せぬ……

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