第4話 柴咲さんの意図


 

 最近、何故か一部の女性社員にアプローチをかけられるようになった俺は、ある仮説を立てた。

 それは、俺の屁に女性を惹きつけるフェロモンが含まれている、というものである。


 この仮説を実証すべく、俺は飲み会にて検証を行ったのだが……、結果として俺の屁にフェロモンは含まれていなかった。

 これは翌日以降、俺にアプローチをかけてくる女性社員が増えなかったことからもまず間違いない。


 しかし、それとは別に、アプローチをかけてきているうちの一人である柴咲さんが、臭いフェチだということが判明した。

 ハーレム系主人公にはなれなかったが、これはこれで有益な情報である。



「はい、今日の差し入れ」


「……柴咲さん、気持ちは嬉しいが、流石に毎日貰うのは悪い」


「私の実家、お菓子メーカーだからこういうの沢山あるんです。だから気にせず貰って」



 だとしても、俺にくれなくてもいいと思うのだが……

 まあ、彼女の意図は見えている。


 ズバリ、屁だ。


 彼女のくれるお菓子は、スイートポテトなどの芋類が多い。

 そして芋類は食物繊維を多く含むため、屁が出やすくなる。

 俺も芋好きでよく屁をするので、このシステムは身をもって体験済だ。


 つまり彼女の狙いは、俺に多くの芋を摂取させることで、日常的な放屁を増やそうとしているワケである。



(困ったな。どうするべきか……)



 彼女の好意は嬉しいが、同時に複雑でもある。

 このままでは、俺は本当の意味で屁こき太郎になってしまうからだ。

 我が家には、出された物は全て美味しく頂くというルールがあり、食べないという選択肢はない。

 となると、やはり彼女に直接やめるようお願いするしかあるまい。



「柴咲さん、今夜空いてるかい?」



 隣の席の白鳥さんが凄い顔をしていたが、今は気にしないでおこう。















「それで、今夜はなんで誘ってくれたんですか?」


「単刀直入に言う。お菓子の差し入れをやめてくれないか?」


「……それは、やっぱり静香ちゃんが気にするから?」


「いや、白鳥さんは関係ない。これ以上会社で屁をこきたくないだけだ」


「……ちょっと待って。お菓子の差し入れと、オナラをすることに何の因果関係が?」


「ん? 臭いフェチの君は、俺に屁をこかせるために芋系のお菓子を差し入れていたんだろ?」



 俺がそう言うと、機嫌の良さそうだった柴咲さんの表情が凍り付いた。

 そして次の瞬間、



「んなワケあるかぁ!」



 と、キレのいいボディブローを喰らった。

 どうやら、俺の推理は間違っていたらしい。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る