第3話 放屁をしたらお菓子を恵んでもらえるようになった

 


「あ、あの、これ、差し入れです」


「ああ、いつもありがとう白鳥さん」



 白鳥さんは俺にお菓子を渡すと、そそくさと自席に戻っていく。

 あの放屁事件以降、白鳥さんからは差し入れを貰ったり、食事に誘われたりするようになった。

 俺としては本当に彼女の名誉を守りたい一心で、決して下心などなかったのだが、これではなんだか悪い気がしてならない。


 しかし、純朴そうで大人しい白鳥さんに慕われるのは、それはそれで悪い気がしない。

 いや、はっきりと良い気分である。



「はいこれ、差し入れ」


「……ありがとう。柴咲さん」



 そしてこの柴咲さんも、あの日から何故か積極的に俺に接してくるようになった。

 これまでほとんど話したこともなかったのに、一体何故なのか……



「お前、柴咲さんにまで……! 屁か? やはり屁によってモテるようになるのか!?」


「そんなワケ……あるのか?」



 同じくあの場にいた同期の久石が、羨ましそうにしつつ屁をネタに弄ってくる。

 変に腫物を扱うようにされるよりいいが、コイツも遠慮がない……


 しかし、本当に理由についてはそれしか思い当たらなかった。

 俺の屁には、女性を虜にするフェロモンでも含まれているのだろうか。

 だとしたら、俺はラノベの主人公にでもなれるかもしれない。



(試してみる、か……?)



 幸い今日は部の飲み会が開催される。

 飲みの席であれば、こっそり屁をこくのには最適の場だろう。

 もしバレても、ネタにされるだけで大事にはならない筈。



(今夜、決行だ)







 ――そして飲み会も終盤に差し掛かる頃、機会は訪れた。



(みんな、程よく酔ってテンションが上がってる。この状況であれば、喧噪に紛れて屁の音も聞こえまい)



 俺は大きな音が出ぬよう焦らず屁を漏らしていく。

 傍には柴咲さんや白鳥さんを含め、部内のキレイどころが数人揃っている。

 俺の屁に本当に女性を惹きつけるフェロモンが含まれるているのであれば、明日から俺はハーレム系主人公だ。


 と、高揚感から思わずほくそ笑んだ俺の脇腹を、誰かがつんつんと突いてくる。

 誰かと思い視線を向けると、柴咲さんが笑顔で俺の脇腹を突っついていた。



(ねぇ、ちょっと付いてきて)



 一体なんだと思ったが、特に断る理由もないため大人しく付いていくことにする。

 店を出て少し歩いた所で柴咲さんが立ち止まる。



「……またオナラしたでしょ」


「っ!?」


「私、わかるんだよ。臭いで」



 俺は大きな勘違いをしていたらしい。

 柴咲さんは、単純に臭いフェチだったのだ。

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