第8話 柴咲さんにぶっかけられた

 


 先日、俺は同僚の白鳥さんから謎の告白をされた。

 その内容とは、俺に主となって欲しいというものだ。

 なんでも彼女は忍者の末裔であり、生涯仕える主君を探していたのだという。


 その対象に選ばれたことは光栄と言えるかもしれないが、俺がやったことと言えば自分が屁をするついでに彼女の放屁の罪を着ただけである。

 それに対し一生モノの恩を感じるというのは、流石にチョロ過ぎではないだろうか。

 最初は面白いという理由だけで了承しそうになったが、一晩経って冷静になり、安請け合いしなくて良かったと感じている。



 自販機前でコーヒーを飲みながらそんなことを考えていると、柴咲さんが近づいてきた。

 彼女は自分もココアを買って俺の隣に並ぶと、脇腹を肘で小突いてくる。



「昨日は、静香ちゃんと、どうだったんですか?」



 彼女は白鳥さんの親友のようだが、流石に昨夜のことについては何も聞いていないらしい。

 だからと言って俺に聞かれても困るのだが、何と答えたものか。



「詳細は言えないが、どうやら彼女は人に尽くすのが趣味のようだ。あの時の礼として、俺に尽くしたいと言ってきた」


「っ!? そ、それで、なんて答えたんですか?」


「少し考えさせてくれと答えた」


「ええ!? 普通静香ちゃんみたいな可愛い子に尽くしたいなんて言われたら、即OKしますよね!?」


「いや、現実的にはいきなりそんなこと言われても躊躇するのが普通だと思うぞ」



 余程のヤリ〇ンやチャラ男ならそうかもしれないが、良識的な社会人であれば最初は警戒するだろう。



「……それで、なんて答えるつもりなんですか?」


「悪いが、断ろうと思ってる」


「な!? どうしてですか!?」


「いくら恩に感じたからといって、それで彼女の人生を棒に振らせるワケにはいかないからな」


「そんな、恩に感じたって、それだけなワケないじゃないですか!」


「ん? それ以外に何かあるのか?」



 全然思い当たらないが、他に俺を慕う要因があるのか?



「そんなの、気になってるからに決まってます!」



 いや、気になってるくらいのレベルで生涯尽くそうなどとは思わないだろう。

 仮にそうだとしたら、俺は既に柴咲さんにも白鳥さんにもベタ惚れということになる。

 それとも、俺が変なのか?



「それなら、俺だって柴咲さんのことが気になってるぞ」


「ふぇ?」



 俺がそう伝えると、柴咲さんはだんだんと赤くなり、ココアを放り投げどこかへ行ってしまった。

 ココアは盛大に俺にぶっかかっている。

 解せぬ……

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