第47話

信也は手紙の入っていた封筒を握り潰した。

 手紙を机において、立ち上がるや部屋を飛び出した。

 家の外に置いてある自転車に飛び乗る。

 一足、二足、三足、四足、飛び上がった。

 力んだ太ももが軋む。

「風の精霊よ我の前に姿を示せ」

 一陣の風が吹いた。

「なんか用か信也?」

 小さな子供の声だ。

「雪篤がどこにいるか教えて欲しい」

「はあ? 自分で探せよ」

「あいつ俺に探されないように自分に魔法をかけてやがるんだ。エアリアル頼むよ」

「しゃあねえな、待ってろ」

 俺があいつを止めないと。

 俺が……

まだ間に合うはずだ。

 なんであいつが苦しんでいるのを氣づいてやれなかったんだろう。

なんでここまで氣づいてやれなかったんだろう。

 最初から止めていれば……。

 絶対に間に合うはずだ。




 誰もいない山の中、明かりとたき火の炎が闇を照らしていた。

月の柔らかい光が肌を包み込み、たき火から出る炎は体を温め、心を温める。その二つは体を優しく抱きしめて、心に安らぎを与えてくれる。

木の中の水分が炎の熱で水蒸氣となり、行き場のなくなったそれらは小さな爆発を起こし、パチパチと音を立てて火の粉が舞っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る