第36話

萌は目をむく。

「だ……誰?」

「しんや? はは……久しぶり、誰だかわかんなかった……」

雪篤は微笑みながら翡翠色の目から涙を流した。

「年輪刻むよ。お前は変わらないな、三十年……ぶりか」

 信也は、涙を拭く。

「今度こそ、そいつを仕留めてみせる」

「やっぱり、人は自分に害があるものを排除しようとするんだね」

「そんなんじゃない、俺はお前を止めたいだけだった。そいつがいるからお前は…………俺以外にお前を止める奴なんていやしないだろ」

「シロがいるから僕がいる、僕がいるからシロがいる、シロがいないともう生きていけないんだ」

「何を言ってるんだよ……馬鹿野郎」

「これ以上被害をだしたくないなら僕たちを倒すことだな信也。お前と僕の言い分は一生交わることはない!」

「もう魔力は残ってないし、あげるよ」

 雪篤は手に持っていた黒い檻を放ってよこした。

 萌はそれを受け止めようとする。

「取っちゃだめだ!」

 信也は叫んだが遅かった。

 萌はその檻を手で受け止めていた。

「え?」

 萌の腕がみるみると石になっていく。

 檻には呪いがかけられていたのだ。

「おじさん!」

萌は信也に泣き出しそうな顔を向ける。

 信也は萌に駆け寄り、

「汝にかけられた呪いよ我に移りたまえ」

 中年は少女の身代わりになった。

 信也の体が徐々に石と化してゆく。

「逃げろ! 早く!」

「おじさん! おじさん!」

 信也は石になり動かなくなった。

 萌は幼虫の入った檻を持って駆けだした。

「信也、人は変わるんだよ。僕だってあの時のままじゃない。今度は邪魔をさせないよ……」

「ゆけシロ」

 魔力喰いは、森の中に消えた少女を追いかける。

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