第11話

 と二人とは違う声がした。

 のっそりと、熊のぬいぐるみがカウンターの向こう側から登ってくる。

「おいしょっ」

 萌は熊のぬいぐるみを見て目を見開いた。

「なにこれえ!」

「俺は熊谷(くまたに)だ、よろしくな萌」

 熊のぬいぐるみは腕を組んでいる。

「いきてるの?」

「信也、生きてるの俺?」

「生きてるんじゃないか? とりあえず舞ちゃんはお留守番で」

「えー」

「ねえ、このくまさんどうなってるの?」

「俺の魔法で動いてるんだよ、かわいいだろ」

 うん、と言っている萌の目の中には星が輝く夜空のきらめきがあった。

 ちなみに熊谷は営業中、魔法の力で人間の姿になれるため、一般のお客の目にはぬいぐるみの姿で映っていない。

「いいか舞、俺一人じゃ手が足りなくてお客さんを待たせてしまう。待たせるのは粗相と同じなんだよ!」

「はいはい、わかりました。本当、接客にうるさいよね」

「うるさくて結構」

「まあ、仲良くやってくれ」

 と信也は言って、萌と自分の食べ終わった皿を片付け始めた。

「ねえくまさん、こっちきてみて」

「ん? しゃあねえなあ」

 熊谷はてくてくとカウンターの上を歩いてくる。その姿はなんとも愛らしい。

 萌は目の前にいる熊谷を目を大きく見開きじっと見つめる。

 なんとも言えない嬉しそうな顔で。

「な、ナンダよ恥ずかしいじゃねえか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る