第3話

「わー凄い」

 お城の舞踏会場は夢のようにきらめいていた。

 モデルを始めて1カ月足らずだったのに、ソルシエは本当に素敵なドレスを作ってくれた。

 ピンクのドレス。だけどフリルには黒のレースが使われているからか、子供っぽさは感じられない。散りばめられた紫の花々も大人っぽさを演出していて、わたしは大変満足だった。

「っと……」

 慣れないヒールにつまずいてしまう。小さな靴はそれだけ子供っぽいはずなのに、あしらわれた黒い蝶々のおかげでそうは見えなかった。

「ふふっ」

 なんというか、わたしは既に満足していた。ダンスに誘われなくても、ひそひそとどうして子供が……という声もどうだっていい。

 ソルシエのドレスを着て、素敵な舞踏会場にいる。

 そして、オシャレで美味しい食事を食べられるだけでとても幸せだった。

 それでも、時折り壁の花になったりもする。わたしはともかく、このドレスは本当に素敵だから沢山の人に見て貰いたい。

「あの、よろしければ踊っていただけませんか?」

 すると、わたしなんかを誘ってくれる人が現れた。

 もっとも、相手は子供だ。いや、わたしと同じように小さな男性だった。奇麗な身なりをしているけど、とても緊張していて共感できる。

「よろこんで」

 だから、わたしは彼の手を取った。

 正直、ダンスは得意じゃない。でも、男性のエスコートが上手なおかげで楽しく踊れた。

 多少無理をしても、男性は合わせてくれる。だから、ドレスの魅力を見せつけるようにステップを踏んでみた。

 そんなアドリブにも動じず男性は見事なターンを決め、周囲から拍手と歓声が贈られた。

 わたしたちは笑み合わせてから、応えるように頭を下げる。

「ありがとうございます。楽しかったです」

 周囲の人々の視線からして、ヘマはしていなかったはず。

「でも、お上手ですね」

「厳しく鍛えられたからね。だけど、今まで披露する機会がなくて……」

 男性はそう言ってから、微笑んだ。

「きみのおかげだ。ありがとう。ところでお名前は?」

「シンデレラです」

「シンデレラ? それは素敵な名前だ」

「ありがとうございます」

 この場の雰囲気のおかげか、わたしは嫌味なく言えた。

「そういうあなたは?」

「私はトーマだ」

「トーマ。素敵な名前ですね。確か、このお城の王子様の名前もトーマ……」

 そこまで言って、わたしは思い至る。周囲の視線を集めていた理由はもしかして……

「あぁ、私がそのトーマだ。こんな小さい成りでがっかりしたかい?」

「いえ、そんな……」

 王子様だとしたら、確か年齢は14歳のはず。

「これから伸びますよ。わたしなんかが言っても説得力ないかもしれませんけど。それに王子様はとても素敵でした。こんなわたしなんかを楽しませてくれたんですもの」

 わたしは一息に言って、逃げるように人混みに紛れる。

 こういう時、自分が小さくて良かった思う。

「……って、ぜんぜんよくないし!」

 一人でツッコんで、わたしはやけ食いを始める。

 童話のシンデレラみたいに制限はないんだから、時間一杯楽しまないと損だ。

 

 ――だけど、わたしの知らないところで物語は進行していた。

 

 翌日、靴はおろか何一つ残していかなかったのに王子様をわたしを探し出して――

「私が成人したら結婚して欲しい」

 童話のようにプロポーズをしたのだった。

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