第40話 神宮大会
11月に入って、秋季東京大会も終わる。
帝都一は無事に決勝までは進出することが出来た。
そして決勝の相手であるが、ここまで番狂わせの連続で勝っているチーム。
体育科のある都立のチームとの対戦となった。
意外と言えば意外であるし、それなりに進学校でもあるが、新興の高校でもある。
おそらくここまで勝ち進んだことで、21世紀枠で出場出来るのではないか。
ただしそれは、全国準優勝であった、帝都一ともそれなりの試合が成立したらの話だ。
楽勝とまでは言わないが、帝都一はある程度、秋からの新戦力を試していく余裕があった。
スーパーエースの力による、ワンマンチームというわけではなかったからだ。
ストレートは140km/h台後半で、スプリットがよく落ちる。
このエースがロースコアゲームを生み出し、打線がしっかりと援護する。
ここまで甲子園出場経験もある、強豪や名門に勝ってきているのだ。
司朗もまだ、地方大会はおろか全国レベルでも、それなりにピッチャーとして通用する。
その肩の強さは外野としてのものであるが、球速自体は150km/hに到達するのだ。
バッターとしての役割が強いが、ピッチャーとしても二番手三番手を争う。
ただエースナンバーはさすがにもらえない。
本業は外野、中でもセンターであるのだ。
肩が強いので状況によっては、ライトに回ることもある。
そしてこの試合、高く上がる外野フライが多かった。
そのため史郎は大忙しである。
甲子園には五回、出場の機会がある。
だが神宮大会は、二回だけだ。
東京はまだしも他の地方は、地区を代表としたチームしか出場できない。
関東や近畿でさえも、1チームしか進出できないのだ。
そして東京は都大会に優勝すれば、そのままセンバツ出場が確定する。
そのためこの決勝を甘く見ているわけではない。
しかし大事な場面でこそ、試したい選手というのはいる。
そしてスコアとしては、5-1で帝都一は都大会優勝を決めた。
これで神宮大会出場は決定である。
おそらく相手チームも、これまで甲子園出場のない都立校。
神宮大会での結果は関係なく、おそらく21世紀枠で出場するだろう。
そして11月の半ばから、神宮大会が始まるのである。
白富東は関東大会の準決勝で、桜印と対戦して負けている。
ジンや司朗はそれを聞いた時、最初に昇馬の怪我について心配したものだ。
白富東とは、以前からそれなりに、練習試合を行っている仲である。
神宮大会では桜印とは、準決勝で当たるトーナメントとなってしまった。
これは勝った方が、関東か東京、センバツ出場の枠が一つ増える可能性が高くなってきたということだ。
それにしても今年の神宮大会は、おおよそ夏にも活躍したチームが、そのまま地方の代表として出てきている。
関東は桜印、東北は青森明星、北信越は上田学院、近畿は仁政学院、四国は瑞雲、九州は尚明福岡といったあたりだ。
他の北海道や東海、中国といった地方も、普通に伝統の強豪が勝ち残っている。
言ってみれば意外性のないチームと言えるであろうか。
帝都一は一回戦からいきなり、強打の尚明福岡との対戦となった。
これをどうにかハイスコアゲームに持ち込むことなく、司朗が決勝点を挙げて勝利する。
だが二回戦の相手も、近畿大会で大阪光陰などを破っている、仁政学院が相手であったのだ。
神宮大会は日程的に、ピッチャーの運用が難しくなってくる。
そのため一回戦が免除の枠に入っていた桜印は、試合が始まる前から帝都一より、体力的には有利であったかもしれない。
そもそも神宮大会などというのは、甲子園に比べればマイナーなものなのだ。
ただ地区代表が勝ち残っているということを考えれば、ここで優勝するのは甲子園でクジ運に頼るより、よほど難しいのかもしれない。
実際に桜印は、かなり戦力を温存して、帝都一との試合に臨むことが出来た。
(上杉将典か……)
司朗としては自分の一つ下の学年では、昇馬の次ぐらいに気にしているピッチャーである。
ただこの大会においては、反対の山から上田学院が、青森明星を倒して残ってきている。
ベスト4に残ったのは、桜印、帝都一、上田学院、瑞雲というメンバー。
確かにどこも、強豪であったり名門であったりする。
瑞雲は比較的、新しいチームと言っていいかもしれないが。
それでも最初に甲子園に出場してから、20年以上は経過している。
桜印としてはこの大会、試合が一つ少ないところに入ったため、かなり楽だなとは思っていた。
そもそも将典が本格的なエースとなる、一年の秋からを目途に、チームを作ろうとしていたのだ。
帝都一も確かに、過去にこの神宮大会で優勝経験があるチームだ。
もっとも他のチームは全て、優勝したことがない。
ただ他の3チームも全て、甲子園での優勝は経験している。
はるか昔の記録もあるので、あまり参考にはならないが。
帝都一と桜印の対戦は、事実上の決勝戦などとも言われていた。
失礼な話かもしれないが、実際に戦力分析や、地理的な要因から考えても、関東のチームは有利なのである。
もっとも歴代の優勝校には、東北や四国のチームも普通にある。
この準決勝で消耗しきらないことが、優勝のための必須条件ではあろう。
ただ出し惜しみをして勝てる相手ではないと、それも分かっているのだ。
他の強豪チームなら、間違いなくエース。
そう言えるピッチャーが、帝都一には三枚いる。
そのうちの一人が司朗であり、本職は外野なのである。
センターとしてとんでもなく、広い守備範囲を誇る。
今日は打撃に専念してもらうため、ピッチャーは他の二枚で継投する。
対する桜印は、エースの将典である。
明日の決勝のことを考えていない。
春の大会であるならば、夏の前の戦力分析、という側面もある。
だがこの秋は、センバツまでに大きく戦力が変わるのだ。
今の全力をぶつけ合って、それで結果が出ればいい。
そういう試合になったのである。
全国制覇を狙う帝都一にとって、最大の難関。
それは春のセンバツの時点では、白富東ではないと思う。
ただでさえ少ない選手層が、さらに人数は減っている。
夏までには戦力を増やしてくるかもしれないが、少なくとも春は弱い。
桜印は将典の入学に伴って、相当のスカウトをしている。
その一年生たちが、いよいよレギュラーになってくる秋。
本格的に桜印は、強さを増していったのだ。
センバツまでに、どの選手がどの程度成長するのか。
そこを余裕をもって確かめられたのは、帝都一の方であった。
しかしながら野球とは、戦力通りに勝負が決まるものではない。
神宮を普通に都大会で使っている帝都一としては、特別感がなかったとも言える。
そのためモチベーションが、上手く上がらなかったか。
司朗は将典からヒットを打ったが、打点がつかなかった。
その前後も充分に恐ろしいバッターなのだが、そこをしっかりと抑えたのだ。
番狂わせとまでは言わないが、ある程度の意外性はあった。
2-1で桜印が帝都一には勝ったのである。
そしてこの勢いは止まらなかった。
決勝の上田学院との試合は、将典に無理はさせていない。
それでも終盤にはクローザーとして登板し、2イニングを無失点で抑えた。
3-2という緊迫した試合展開で、桜印が優勝。
少しだけ意外ではあったが、白富東に帝都一と、全くタイプの違う強豪を倒してきたのが桜印である。
神宮大会もまた、歴とした公式の全国大会。
ここを制したことで、関東の三強が決まったと言ってもいいだろう。
春のセンバツを制した帝都一、夏の選手権を制した白富東、秋の神宮を制した桜印。
特に白富東と桜印は、同学年にそれぞれのエースがいる。
最後の夏にまで、この対決が繰り返されるのではないか。
高校野球ファンは、期待してそれを待つことになる。
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