第11話 Side/友人間のやり取り

 これは、蓮也と玲奈が『そっちから誘え!』なんて口喧嘩をしながら空中経路に向かっている最中さいちゅうのこと。


「しっかりやってんのかねえ……。蓮也は。なんか月宮ちゃんと二人で空中経路に行くらしいけど」

「あははっ! それは玲奈っちにも言えることだよ」

 二次会のカラオケ会場に到着した合コンメンバーの悠樹と、玲奈を合コンに誘った人物でもある桃は、ドリンクバーで飲み物をぎながらこんな話をしていた。

 出会ったばかりの二人ではあるが、友達同士の会話ができるということで、いい関係を築けていたのだ。


「あの二人はこじれてるからね〜。生半可にはいかないんだと思う」

「やっぱりそうか。仲がいいのか悪いのか、正直わからなかったんだよなぁ……。そのくせいい雰囲気作ってたりするし」

「まあまあ、喧嘩することはないんじゃない? 一緒に遊ぶのが嫌なら、玲奈っちは絶対断るし。『難攻不落』の噂は間違いじゃないんだよ?」

 ドリンクを注ぎ終わる二人だが、すぐにカラオケルームには戻らない。

 近くに用意された椅子に座って、誰にも邪魔されないように会話を続けるのだ。


「これ思ったんだが、月宮ちゃんが『難攻不落』って呼ばれるようになったの、蓮也が原因だったりする? なんて言うか、ずっと想ってたから他の男は眼中にない! 的な感じで」

「そうだよー。玲奈っちは本当に一途さんだからねえ。うちが蓮也くんと話してた時なんか、ムッてしてきたんだから。『ちょっと仲良くしすぎ!』って」

「ハハッ、友達が相手でも敵意丸出しかよ!」

「だよねー! 可愛かったから全然いいけど」

『難攻不落』は男の噂が一切なかったのだ。

 こうしてオモチャにされるのは自然のことである。


「悠樹くんもいろいろ気づいてたでしょ? 例えば、玲奈っちが蓮也くんのことチラチラ見てたり」

「そりゃあな。『こんなにあからさまなのか?』って思ったくらいだし。オレが月宮ちゃんと一対一で話してた時なんか、『レンに彼女はいるの?』とか、『レンに好きな人はいるの?』とか、ずっと蓮也の恋路に関するだったんだから」

「そっれは熱々だねえ〜。いろいろ聞かせて聞かせて!」

 からかう材料ができたと言わんばかりに、白い歯を見せる桃。

 そんな彼女に対し、もちろん情報を与える悠樹である。


「ハハッ、これは今でも思い出し笑いしちまうんだが、『レンに彼女いるの?』とか、『好きな人はいるの?』の質問に『いない』って答えたあとの月宮ちゃん、どんな反応したと思う?」

「いいクイズだねえ! えっと……『まあ知ってたけどね! アイツを好きになる人はいないし!』って強がった! どう!?」

「さすが桃ちゃん。ほぼ正解。んでその質問に『いない』って答えたらさ、月宮ちゃんめちゃくちゃニヤニヤを我慢するんだぜ? 『ふーん。そうなんだ』って必死に澄ました顔を作って」

「あははっ! それ簡単に想像できるよ」

 大学一年生からずっと関係を持っている桃なのだ。

 長い髪を人差し指でクルクルしている仕草までイメージができていた。


「玲奈っちのことだから、ニヤニヤを我慢できなそうになかったらお酒に逃げたでしょ?」

「本当月宮ちゃんのことよくわかってるんだな。全くその通りだ」

「むふふ」

「嬉しいなら素直に出せばいいのになぁ……。我慢しようとしたせいで酔ったのは間違いないだろうし」

 必死に取り繕っていたところを思い出す悠樹は、注いでいたドリンクを飲み干すと、唐突なため息を吐く。


「オレとしては月宮ちゃんに頑張ってもらって、蓮也を夢中にさせてほしいところなんだが……厳しいだろうなぁ。月宮ちゃんが相手でも」

「えっ? どうして?」

「ああ、桃ちゃんは知らないのか。蓮也はな、元カノに未練がありすぎるんだよ。自然消滅してんのに、未だ待ってるくらいなんだぜ? 2年も」

「……うん?」

「月宮ちゃんにはそのこと伝えたけどさ、今思えば伝えなけりゃよかったぜ……」

 後悔したようにガシガシと頭を掻く悠樹だが、なにも知らないのは悠樹である。

 桃は目を大きくすると、首を傾げて言うのだ。


「えっと、それは本当に大丈夫だよ? だって蓮也くんの元カノが玲奈っちだし」

「ハハハ、その冗談には騙されないぜ?」

「本当だよ? じゃなかったら玲奈っちが嫉妬するわけないでしょ? 『難攻不落』のあだ名もついてるんだし」

「……」

『玲奈から聞いた』の言葉を桃が言わずとも、この状況証拠だけで伝わるのだ。


「いや、え? ま、待て待て……。話についていけねえよ……」

「あー! この情報知らなかったってことは、蓮也くんが元カノのことどう思ってるのかとか聞かれたでしょ!? 玲奈っちのことだし!」

「……聞かれた。てか、元カノを褒めれば褒めるだけ誇らしそうにしてたのそれが理由だったのかよ……」

 手のひらで転がされていたことを知り、ガックリと肩を落とす悠樹は、すぐにスマホを開き、LAINを使って蓮也にメールを打ち込むのだ。


『蓮也、本当にすまん! お前が月宮ちゃんと付き合っていたことなんて知らなかったから、お前が元カノを今でも好きでいること教えちまった! めちゃくちゃからかわれるかもだ!!』

 ——即、送信。

 このメールが後にナイスアシストに引き起こすことになるなど、悠樹は知る由もない。


「……さ、さて、みんなも待ってるだろうしカラオケに戻るか! オレはもう知らねえーっと」

「はーい! いこいこ!」

 そうして、この二人もカラオケルームに戻るのだった。

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