第2話 Side/元カレ

「なあ蓮也れんや、3日に予定あるか!? 3日の土曜日だ!」

「3日って言うと12月の?」

「ああ! 空いてるなら合コン来てくれねえか!?」

「ご、合コン?」

 11月25日。これは、玲奈が合コンに誘われる数日前だった。

 令新大学の廊下で、佐藤蓮也は友人から突然の誘いを受けていた。


「俺……合コンなんて一度も参加したことないんだけど、誘う友達を間違えてない?」

「間違えてねえよ! お前、あんまり彼女とかに興味がないだろ? 恋愛よりも勉強派だろ?」

「ま、まあ……」

「それが一番いいんだ!」

 凄い勢いで顔を近づけられる蓮也は、困った表情を浮かべる。

『恋愛よりも勉強派だろ?』の質問に『もちろん』と答えず、濁した回答をしたのには、とある理由が関わっていた。


「えっと、なんで勉強派だと都合がいいの? 合コンって出会いを求める場だろうし、普通は逆じゃない?」

「いや、それがそうでもない。まず出会いを求める男が少なければ、オレのライバルが減るだろ? 気になる女の子を取り合う確率が減るってわけだ」

「あ、ああー」

「それにオレのいいところ? みたいなのを蓮也が褒めてくれる機会もあるかもだし、そうなったら女の子にアピールもできるしな! 基本は競争だから敵に塩を送るヤツは少ないんだよ」


「なるほど……。でもさ、そのサポート役って合コン全体にメリットはあるの? 悠樹ゆうきだけ味方するのは、参加してる男性陣から煙たがられそうな気がして」

「んまあ、雰囲気を楽しみたいってヤツは、自然とサポート役に立ち回ってくれるんだ。一人で飲んでる子がいたら声をかけてくれたりとかな? ほら、やっぱりそんな人がいるだけで場の空気は変わってくるから、逆に感謝されるんだぜ?」

「へえ、そんな感じなんだ」

 今まで一度も合コンに参加したことない蓮也にとってしっくりこない説明ではあるが、悠樹ゆうきの説明は一理あること。


「もうわかったと思うが、今説明したメリットは全部オレのためにもなる! クリスマスまでに彼女を作りたいオレにはな!! で、どうだ!? 参加してくれるか!?」

「う、うーん……」

 熱い誘いを受けるも、眉間にシワを寄せた蓮也はそのまま言葉を続ける。


「……いろいろ聞いたあとで申し訳ないけど、やっぱり合コンは遠慮しておくよ。慣れない場だし、悠樹ゆうきの力になれないと思うしさ」

「ちょ、そんなツレねーこと言わないでくれよぉ……! オレぁよお、クリスマスまでに彼女作りてぇんだぁ……。とりあえず数を埋めてくれるだけでも本当に助かるんだぁ……」

「あ、あはは……」

 腕を目に当てて、声を震わせながら泣き真似をする悠樹ゆうき

 そんな彼を苦笑いで見つめていれば、「あ!」なんて声を上げ、合コンの興味を惹かせるように話題を変えてくるのだ。


「そ、そう言えばあの子が参加するかもなんだぜ!? 顔くらい見たいだろ!?」

「あの子じゃわからないよ」

桜華おうか女子大の『難攻不落』だよ! 凄えだろ!」

「っ……。ああ、なんかそのあだ名、聞いたことあるよ」

 一度息を呑んで答えた蓮也。この時、脳裏にはある記憶がよぎっていた。

 桜華おうか女子大学に進学した彼女。いや、自然消滅したと言ってもいい元カノのことを。


「はあ。この名前聞いて興奮しねえのお前だけだぜ? 本当。難攻不落って言えば、この大学で一番話題に出る女の子なんだからよ」

「別の大学なのに……?」

「今はSNSの時代だからなー。可愛い子はすぐにリークされるってわけよ。難攻不落を見たいがために学祭にいく男共もいたくらいだしな」

「へ、へえ……。でも、その人は合コンを断りそうじゃない? 詳しく知らないけど、あだ名でどんな人なのかはわかるし」

 難攻不落の意味は、攻撃が難しく、なかなか陥落しないこと。

 つまり、たくさんの好意を受け……告白をされてもなお、靡かない人物ということ。

 靡かないともなれば、恋愛に興味のない人物となり、合コンにも興味がない人物というところまで予想ができる。


「まあ、ぶっちゃけオレも参加しないとは思ってるけど」

「ふっ、なんだそれ」

「でもな、それ以外のメンバーもめっちゃ可愛いってことを伝えたい! それに、蓮也が参加してくれたらお礼はちゃんとするぜ!?」

 頼みごとだと割り切っている友人の悠樹は、聞き返される前にお礼の内容を口にするのだ。


「まずお前の飲食代は全部オレが持つ! それに、蓮也が欲しがってた参考書が2冊あっただろ? あれも買ってやる!」

「えっ、あの2冊って相当な値段するよ……? 無理してない?」

「それくらい今回の合コンには本気なんだ! オレは」

「……」

 合コン代が無料。加えて欲しかった参考書まで買ってもらえる。

 間違いなく破格の条件である。が、どうしても足を一歩踏み出せない理由が蓮也にはあった。

 それ、、は、わかりやすく表情に現れていた。


「……やっぱり、アレを引きずってんのか? 蓮也は」

「ッ! あ、あはは……。やっぱりバレてたか。悠樹には教えてたもんね」

 バツが悪いように頬を掻きながら頷く。


「連絡なくてもう2年なんだろ? 別れてるのかわからない状態なら、合コンに参加しても文句は言われたりしねえよ。元より蓮也は出会いを求めて参加するわけじゃないんだしな」

「ま、まあ……。向こうは彼氏を作ってる可能性もあるもんね」

「おいおい、答えにくいヤツはやめてくれよ」

「ごめんごめん」

 自然消滅の目安は、連絡が途切れて約1ヶ月。蓮也の場合、それを大きく超える2年なのだ。


「あ、言い忘れてた。もしなにかその彼女のことでトラブルが起きたら、オレが責任を取り持つぜ? 無理やり合コン誘ったのはオレだしな」

「そ、そう? 俺としては、悠樹の助けになりたい気持ちはあって……」

 大学を休んだ日などは、ノートを貸してもらったりとお世話になっている蓮也なのだ。

 この言葉に嘘はなく、トラブルが起こった際には、誤解を解くために間に入ってくれる。そこまで言われたのなら——。


「わ、わかったよ。引き立て役でいいのなら」

「ほ、本当か!? マジで助かる! 強引で悪いな!」

「あはは、あんまり役に立たないと思うけど、そこはごめんね」

「平気平気! んじゃ。集合場所とかまた連絡入れるからもうちょい待っててくれな!」

「うん。了解」

 そうして、合コンの参加を決め——迎えた当日。


 待ち合わせ場所に向かっている途中、蓮也は待ち伏せされていたかのように、こじれ続けていた相手と顔を合わせることになるのだった。


「ッ!? な、なんで……? は……?」

 驚きのあまり言葉を失う蓮也と、

『『は?』ってそれ、わたしのセリフだから』

 細い腕を組んでムッと睨みつけた玲奈の構図で。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る