友人の頼みにより強引に合コンに参加させられた結果、自然消滅した元カノと再会することになった

夏乃実(旧)濃縮還元ぶどうちゃん

第1話 SIde/元カノ

「ねえねえ玲奈れいなっち、昨日まーた男から連絡先を渡されたんだってえ? バイト先で」

「っ、誰から聞いたのよ、その情報……。わたし誰にも言っていないのに」

「さあ、どこだろ! 秘密〜」

 桜華おうか女子大学。

 その学生食堂でニヤニヤした友人から追及を受けているのは、銀色の髪を二つのリボンで結った月宮つきみや玲奈である。


「で! 玲奈れいなっちは連絡返したの!? お相手、大学生モデルの人だったんでしょ!?」

「う、うん。そうらしいけど、連絡は返してないわよ」

「えっ!? そうなの!? うちはてっきり連絡を返して、デートの予定でも立ててるんじゃないかって思ってたよ」

 グイグイと聞いてくる友人の桃は目を丸くしている。

 そんな彼女を見ながらパスタを口に運ぶ玲奈は、細い首を傾げて眉を八の字にする。


「そんなに驚くことはないでしょ? その彼とは友達というわけでもないし」

「うちなら絶対連絡返すけどなぁ。デートとか楽しめるだろうし、上手にいえばモデルの彼氏が作れるわけだし」

「そうかもね」

 当たり障りがなく、興味を感じさせない返事を聞き、桃は感じていた質問を飛ばすのだ。


「あのさ、玲奈れいなっち。これずっと気になってたんだけど、玲奈っちって恋愛に興味ない人だったりする? ぶっちゃけると男に興味ない! みたいな」

「な、なによ藪から棒に……」

「だってもうすぐ12月じゃん!? 12月といえばクリスマスじゃん! 彼氏作りたくなる時期じゃん!」

『じゃん』の三段活用。

 それだけ彼氏に飢えている桃であり、モデル業を務める相手からのアタックを断っているとなれば、『興味ない』と思われても仕方ないだろう。

 が、これは彼女の勘違いである。


「べ、別に興味がないわけじゃないわよ……。これでも彼氏がいたことあるもの。一人だけ……だけど」

「っ!? ちょ、ちょちょちょ! えっ、それ初耳なんだけど!!」

「だ、だって普段から聞かれないから」

 まるでこの手の耐性がないように、人差し指で銀の髪を巻きながら顔を赤らめる。

 そして、大げさな反応を見せる桃だが、不思議なことではない。

 桜華おうか女子大学で『一番告白をされている!』『一番の美人!』という呼び声もあり——こんな二つ名も作られているほど。


 SNSアカウントでフォローや返信するのは、知人や友達のみであること。

 異性から遊びの誘いをもらっても、一切相手にしないこと。

 迷う素ぶりを一切見せず、全ての告白を断っていること。

 この3点から、『難攻不落の月宮さん』と。


 そんな土台を大学で作っていた玲奈が、実は彼氏を作っていた。

 この衝撃的な事実を知り、桃はさらなる好奇心を働かせることになる。


「ねっ、ねっ! その彼氏とはどのくらい付き合ってたの!? いろいろ教えてよ!」

「別に面白い話はないわよ? 付き合っていた時期も高校2年生から3年生の1年間だし」

「ほうほう。でもさ、高校生にしては長くない?」

「ん。確かに高校生にしては長いと思うわ。知人は何回か別れていたけど、わたし達はずっと続いてたから」

「……」

 ここで気になるのは、やはり過去形であること。


「え、えっと……さ? 玲奈っち」

「うん?」

「これは答えにくかったら答えなくて全然いいんだけど、どうして別れちゃったの? 玲奈っちが別れる原因を作ったとか全然湧かなくって。喧嘩別れするようなタイプでもないと思うし……?」

 普段からおちゃらけて、ガツガツと踏み込んでいく桃だが、『聞かれたら嫌なこと』の分別はしっかりとできる人間である。

 不快にさせない気遣いができるからこそ、玲奈と親しい関係を続けられて、友達も多いのだ。


「確かに桃の言う通り。別れた原因は仲違いでもなくて……。ただ、お互い忙しくなったの。高校三年生って言えば受験の年でしょ?」

「なるほどねえ……って、納得しかけたけど、それおかしくない!? その流れだと受験シーズンが終わったらまた付き合うでしょ? 忙しい時期が過ぎるわけだから」

「そうなのかしらね」

「そうなのかしらね、じゃないでしょー……。その感じだと大学に入ってから全然やり取りしてないんだ?」

「ん」

 一言の返事。

 まるで他人事のようで、余裕のある言い方。

 当時のことはもう割り切った雰囲気を醸し出している玲奈だが……端正な顔にはしっかりと本音が現れていた。

 この現状に不満があるように、口を小さく尖らしていたのだ。


「あれ? じゃあもう2年くらい連絡取り合ってないの!? 今は大学2年の冬だし……」

「ええ。だから自然消滅」

「そっかぁ……。それはそれで辛いね?」

「……」

 強がるように返事はしない玲奈。

 だが、表情にはさらに本音が現れている。もちろんそれは桃に伝わっていること。


「でもさ、まだ諦めるには早いんじゃ? 自然消滅してたとして、元カレさんが別の彼女を作ってるとは限らないし! 玲奈っちを彼女にしてたならなおさらね!」

「っ! ど、どうしてわたしがアイツを求める側、、、、になっているのよ。別にそんなのじゃないから」

「へえー? うちはてっきり復縁したいとか、未練があるから、彼氏を作ろうとしてないんじゃないかと。これなら筋は通るし、モデル相手なのに連絡しないくらいだから、元カレさんは絶対いい人だろうし」

「は、はあ? 全然よ。全っ然!」

「またまたそんなこと言ってー」

 今までの不満を凝縮したような力強い返しをするも、桃は平然としている。


「うーん。でもそっかぁ。その状況なら玲奈っちはダメかぁ。元々ダメな予感はしてたけど」

「ダメってなんのこと?」

「実は12月の頭に合コンがあるんだけど、それに誘われてて、今はメンバーを集めてるんだよね」

「なるほどね。お誘いの気持ちだけ受け取っておくわ。今の状況がなくとも、合コンにはどうしても抵抗があるから」

 合コンに一度でも経験しておけば、敷居も低くなるだろう。

 合コンイメージも変わるだろうが、玲奈は未体験である。

 気乗りしないのは当然である。


「ちなみに、どこの大学生と合コンをすることになっているの?」

令新れいしん大学の人だよ〜。それも全員が同い年!」

「それは馴染みやすそうね」

「あっ、いろいろ教えてくれたお礼に、玲奈っちにはお相手の合コンメンバーの写真見せてあげる!」

「ええ? 見せなくていいわよ。わたしは参加しないから」

『難攻不落の月宮さん』は健在。

 オレンジの瞳を細めながら断るも、この写真を偶然見たことで運命の歯車は動き始める。


「そんなこと言わずに! もう少し参加メンバーは増えると思うけど、性格よさそうな人とか、カッコいい人ばっかりなんだって! ほら!!」

「……」

 顔の前にスマホを出され、渋々といった顔でメンバーの集合写真を見た玲奈は……興味のない顔から呆気に取られたように固まってしまう。

 オレンジ色の瞳には、予想もしていなかった人物が映っていたのだ。


「……っ、ごめん桃。ちょっとスマホ貸してもらえる?」

「お? 気になる人でもいた!?」

「うん……」

 玲奈はスマホを受け取ると、画面を拡大する。

 約2年会っていない人物だが、見間違えるはずがない。因縁のある男がしっかり写真に収められていたのだ。

 これが、敬遠していた合コンに参加する決め手になる。


「……ねえ、桃。その合コン、やっぱりわたしも参加していい?」

「えっ!? う、うちは大歓迎だけど……本当に言ってる? 冗談じゃない?」

「もちろん」

「い、いやあ、いきなりだからビックリだよ……。もしかして本気で気になる人とかいた?」

「コ、コイツ……」

『くっ!』と、歯を食いしばったような声で、液晶に映る一人の男を差す。

 気になる人を指したわけではないが、このやり取りは偶然に噛み合う。


「あっ! この人優しそうでカッコいいよね!! 聞いた話だと3人くらい狙ってるらしいんだけど、実はうちも候補に入れてたり〜!」

 玲奈が指した人物について、テンションを上げながら補足する桃。

 その補足はまごうことなき刺激剤。

 明るい顔をする友人に——真実を伝えた。


「待って。コイツ……コイツがわたしの元カレなんだけど」

「え゛」

 敵意を滲ませて、付き合っていた頃の独占欲……さらには嫉妬を思い出したように。


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