第3話 再会
19時集合の合コン当日。
18時20分に外に出る準備を済ませた蓮也は、玄関先でスマホを開いていた。
「はあ。今さら連絡するのも迷惑だよな……」
重苦しく呟くのは、玲奈の
これはもう何十回と呟いたこと。何十回と思ったこと。
スマホの機種変更を行なったため、玲奈との過去のやり取りはなにも残されていない。空白のメッセージ欄があるのみ。
「……」
数十秒とその画面を見続け、電源を落とすと、暗くなった画面に自分の顔が映る。
その暗さはまるで、自身の感情を映しているよう。
約2年も連絡を取り合わず、顔も合わせておらず、自然消滅しているのはほぼ確実。
……だが、自然消滅していない可能性も僅かにある。
もし後者であるなら、引き立て役として合コンに参加することも間違っているだろう。
「勢いで参加しちゃったけど、やっぱり勇気を出して関係を確認しないとだったよな……」
玲奈との関係が明確ならば、合コンに参加することに後ろめたさはない。
『じゃあ今からでも確認すればいいじゃないか』なんて意見もあるだろうが、2年という時間は行動に移せなくなるほどに重いもの。
「玲奈
言い訳だと言われたら否定はできない。そして、受け身になり続けた蓮也も悪いが、仕方がなかったのだ。
連絡が途切れてしまったのは、別々の大学に進学した時。その新学期である。
連絡がないからとがっついてしまえば、ウザがられてしまうかもしれない……。そんな心配から、慎重になってしまっていた。
さらに、玲奈は体が弱いのだ。新学期という新しい環境から、馴染むだけでも精一杯だっただろう。メールを返す余裕もなかっただろう。
玲奈のことを誰よりも想っていたからこそ、嫌われることを一番に恐れていた。その結果が今に繋がっていたのだ。
「……はあ」
再び深いため息を出す蓮也だが、考え込むのはここまでである。
パンパンと両手で頬を叩き、気持ちを切り替える。
玄関に備えられた姿鏡を見ながらワックスをつけた髪が乱れていないか、服にシワがないか、忘れものはないか。
身だしなみの最終チェックを終えると、合コンの会場でもある駅前に向かうのだ。
予想だにしない人物に出会うことなど知らずに——。
∮ ∮ ∮ ∮
合コンの集合場所は駅の東口。
自宅から一番近い西口に辿り着いた蓮也は——。
「ッ!?」
呆気に取られていた。石のように固まって視線を釘付けにされていた。
蓮也の視界には、見間違えようもない人物が映っていたのだ。
銀色の髪に被せたブラウンのベレー帽。クリーム色のタートルネックに黒のタイトスカート、黒のストッキングとヒールの靴を合わせた女性を……。
当時と比べて随分と大人びているが、一瞬で知人であることに気づく。
「な、なんで……。なんで玲奈が……。は?」
「『は?』ってそれ、わたしのセリフだから」
駅の西口で、まるで蓮也の来る方向を読んでいたように腕を組みながら佇んでいたのだ。
高校時代の恋人だった、あの月宮
「って、ダッサい大学デビューね。そんなチャラい格好しちゃって。合コンで女の子を引っ掛ける気満々じゃないの」
「そ、そんなわけじゃないし!」
パニックで状況を整理することができない。
『なぜ合コンに参加することを知っているのか』、そんな疑問を覚えるよりも先に強がってしまう。
「ふんっ、どうだか。自慢の服装なんでしょうけど、全然カッコよくなんてないんだから」
「……へ、へえ。それはそれはカッコ悪くて悪かったですね」
眉をピクピクと動かしながら、負けじと強気で返す。
「まあ、あからさまに男ウケのファッションをした玲奈に言われたくないけどね」
「は、はあ? 別にそんなつもりじゃないんだけど! あなたがオシャレじゃないからそう感じるだけでしょ」
「ん゛……」
「むう……」
悪口から
見るからに犬猿の仲だが、本音は全く違うもの……。
(こ、こんなこと言いたいわけじゃないのに、どうして俺は……)
(ど、どうしてこんなことを言っちゃうのよ……。わ、わたしは心の準備をしていたのに……)
2年ぶりの再会で極まる高揚感。
ただただ距離感が掴めない二人だったのだ。
「ふん! まあいいわ。とりあえず東口に行きましょうよ。もうそろそろ集合時間でしょ」
「え?」
「合コンに参加するんでしょ、レンも」
「は?
「そのまさかだけど。じゃなきゃこんなところで会うわけないわよ」
「いや、まあ……」
ハッキリしない返事をしながら、蓮也は胸を締めつけられていた。
この会話で決定的になったことがあったのだ。
玲奈はこちらが合コンに参加することを知っていたこと。
それなのに、止めなかったこと。また、自分も参加すること。
「なにか文句でもあるの? 2年も連絡しなかったくせに」
「べ、別にないし。文句なんて」
「あっそ」
(文句あるに決まってるって……! なんでそんな簡単に流すんだよ……)
(わたしに文句がないってどう言うことよ……! 文句言ってくれなきゃ悪い方向に進んじゃうじゃない……)
こんなすれ違いが発生しているのは、至極当然なことだろう。
「って、待って。今聞き逃せないことあったんだけど。連絡しなかったのは玲奈でしょ? なに言ってるの」
「わたしのせいにするなんて本当最っ低。レンから連絡するって言ったじゃない。それにわたしは連絡したし」
「いやいや、逆だって! 連絡も届いてないし」
「ふーん、嘘つき。仮に逆だとしても、あなたが連絡を入れればよかったじゃない。どうしてそれをしなかったのよ」
「ッ、そ、それは……」
自然消滅していると悟った蓮也なのだ。
受け身になっていた理由は言えない、言えるはずがない。
頭を働かせ、上手に話題を逸らすのだ。
「てか、それは玲奈にも同じことが言えるでしょ。連絡が返ってこないとしたら、催促のメールを入れればいいだろうし。どうしてそれをしなかったの?」
「っ、そ、それは……」
強気だった玲奈は、途端に口ごもる。なぜか蓮也と全く同じ反応を見せたのだ。
そして、気まずそうに視線を下に向けると、小さな声で言う。
「それは……い、言いたくない。レンだってしれっと誤魔化しているし」
「……」
「まあ、わたしは別にどうでもいいけど? レンのことなんか嫌いだし。合コンなんかに参加しちゃって」
「玲奈だって参加してるのによく言うよ、本当」
「レンの気持ちがわかったからだし」
「俺の方こそわかってるし」
(合コンに参加しているってことは、レンは新しい彼女を作るために……よね。わたしは引き止めたかったから参加しただけなのに……)
(俺が合コンに参加するって知っていても、止めずに参加したってことは、玲奈はやっぱり新しい彼氏を作るために……だよなぁ。これじゃ、引き立て役だってことを言っても遅すぎるよ……)
二人は
そんな関係のまま、合コンを迎えることになるのだった。
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