第2話 決意

「ふぅーーー!やっと休憩だァ!」


僕が馬車から降りてぐぃーっと伸びをするとイーサンさんがクツクツと笑う。


「なんだ、カナメ。馬車が窮屈だったのか?」


と、ダヴィンズさんが不貞腐れたような表情で問いかけてきた。


「ダヴィンズさん!僕の地域では馬車は存在してましたけど、乗る機会なんて無かったんですって!慣れてないんですよ」


と慌てて弁解すると、コロッと表情を変えガハハと笑い、「そうかそうか」と頭をわしゃわしゃと掻き回してくる。


ていうか馬車ってこんなに揺れるんだなぁ。お尻が正直かなり痛い。


「それに魔法の練習が出来ることが楽しみで仕方なかったです!」


身を乗り出すように言うと、ダヴィンズさんはもっとニコニコとした表情でこちらを見てくる。


「護衛のヤツらに休憩を与えたらすぐ戻ってくるな」とダヴィンズさんは護衛の人達の方に向かっていった。





「じゃあ魔法の練習とするか。魔法って言うのはさっきも言ったがイメージと魔力の量が大切だ。これは努力でどうにかするしかない。じゃあまずは体の中にある魔力ってもんを感じるとこからだ。」


「魔力…」


「体の中に流れてる血と一緒だ。血を感じろっていうのもなかなか難しいだろうが感じないことには始まらない」


うーーん、う?これかなっていうのを感じ取った。森田君の小説みたいにあれかな、体の中をぐるぐる回してみた。


「おお!いい感じじゃねえか!っつっても見た感じだけだからわかんねえが」


ガハハと笑うダヴィンズさんだが正直魔力の操作でいっぱいいっぱいすぎて笑ってられない。


「じゃあ次はそれを手のひらに集めて風の玉、【ウィンドボール】を作るんだ。さっき馬車ん中で見ただろ?」


先ほど馬車の中で見た【ウィンドボール】を再現してみる。ちょっとずつちょっとずつ魔力を注いでいって………

「飛ばす想像しろ!!!」


ヴォンと風切り音を鳴らして草原を【ウィンドボール】が飛んでいく。


だいたい25mを超えたところで魔法は消えていく。


「で、出来た!」


「初めてでこの出来とはいい感じじゃねえか!!魔法操作に関してはかなりの才があるようだな!!」


「そうなんですか?」


「基本的には何回かやって一回成功できればいい感じなんだが、カナメは魔法を込めるのは時間がかかったが初めてにはそこそこ早いとは思うし、初回で形になってるのは才能があるってことだ」


「それはよかったです」


その後も何回か【ウィンドボール】を飛ばしてみる。


とくに速度、大きさ変わらず草原をある程度進み、消える。


初めて魔法を使うことが出来て、るんるんでダヴィンズさんの方を向くとうーんとうなっている。


「ど、どうかしましたか?」


不安になって尋ねると


「ただ、カナメの魔法量はそんなに多くねえ。【ウィンドボール】ってのはもっと遠くまで届いてもいい魔法だ。イメージにもよるとは思うがさっきの俺の魔法を見て魔法を出したんなら、もしかしたらカナメ、お前戦闘職として大成していくにはちと大変かもしれねえ。」


と深刻そうな顔をして答えてくれた。


「戦闘職って何です?」


「ああ、戦闘職も分からねえよな。戦闘職って言うのは基本的に魔獣と戦うことによって生活していく人たちだ。俺たち商人も護衛がいるとはいえ遠くまで行くのには魔獣や盗賊に襲われることもある。そこで戦うだろ?中には護衛だけに戦いを任せるやつもいるが、ごく少数だ。ドワーフとかエルフだとかなら生産職でも生きていけるからまだしも、人間の男は戦えねえといろんな職に就けねえ」


さっき馬車の中で魔獣と言って普通の動物とは別に魔力を帯びた獰猛な生物がこの世界にいることは教えてもらった。それにドワーフやエルフといった人間とは違う存在がいることも。


しかし、戦闘職に就けないといろいろな仕事をすることは難しいとはなんとも言えない。

僕の夢は昔からおじいちゃんやおばあちゃんと生活してたときのように好きなことを好きなだけ楽しんで、自給自足しながら悠々自適に生活していくことなんだから。


「ダヴィンズ!カナメさん!食事の用意ができましたよ」


馬車の方からイーサンさんが呼びかけをしてくれた。


「とりあえず食事しながら続きを話すか」


「そうしましょうか」


イーサンさんに呼ばれた方に行くと大量の麦粥とビスケット、それに塩漬け肉。

…もしかして異世界って食事のレベルは中世だったりするのか、まじか………


もしかしたら、街の方も中世レベル?汚物でまみれてたりするのかなぁ。



「量はありますし、肉も用意してます。カナメさんの地域が何を食べているのかわからなかったのでもし食べれなければ無理はしなくていいですからね」


「いえ、量はそんなに食べないので気にしないでください」


「おや、そんなに少なくていいんですか?」


「はい。僕あんまり食べないタイプなので」


といっても食事としてはかなりの量を取った。がそもそも、中世の人間というのは現代人の三倍から五倍のカロリーを摂取している。肉体労働の多い中世の人間はそれくらい食べないと飢えて死んでしまうらしい。この地域というか異世界は多分中世ヨーロッパと魔法がある以外はそんなに変わらないだろうから食事も多いんだと思う。


ただ僕は異世界に来たばかりで馬車に乗っていただけ。そんなにお腹は空いていないし、そもそもそんなに胃に入らない。


うわ、塩漬け肉ってほんとにしょっぱい。


「飲み物はビールとポワレ(梨酒)があるがどっちがいい?」


「あーこの世界の成人って何歳です?」


「場所にもよるが基本的に15から18だな、なんか用があったか?」


成人が15才なら飲酒も許されるだろうか。というか多分保存のきかない井戸水よりもほぞんのきくアルコールを飲む文化なんだろうな(ヨーロッパ中世史的に)

なら仕方ない。水分は取らなきゃいけない。水がないならアルコール飲むしかないし、多分現代のやつに比べてアルコール度数は低いお酒だろう。


「いや、ポワレにしておきます」


「どうぞ、カナメさん」


僕たちの話を聞いてくれていたのか、木製の大きなジョッキでイーサンさんが持ってきてくれたけど、いやデッカ!僕の顔ぐらいのサイズ感だよこれ。


「イーサン、俺にはビールくれ!!」


「わかりました」


僕の5倍はあるんじゃないかという量の肉と麦粥、ビスケット。それに大きなジョッキにビールが並々。とんでもない量だ。


そういえば気になっていたが、


「もし戦闘職を選ばなかったときどうなるんですか?」


ぐいっとビールを飲んだダヴィンズさん。


「そりゃ生産職だ。ただ加工の腕がないとなかなか厳しいし、ドワーフと違って人間には知識がねえ。徒弟制度を組んで知識を得ても才能がものを言う世界だ。しかも人間の男は戦闘職であるべきとかいう変な偏見までついてやがる。生産職になるにはあまりおすすめはしないぜ」


「生産職?いいじゃないですか楽しそうで」


「そんな甘い世界じゃねんだよ、カナメ。なにを作ったとしても所詮人間の作ったものっていって話になんねえ商会もあるし、難癖つけていく客もいる。古代文明の時期には生産職も戦闘職みたいに人間の男でも錬金王だとかいった逸話も残ってはいるが今の世じゃなかなか難しい。よほどのものじゃねえとな」


「よほどのもの、ね」


その言葉を聞いた途端、僕の中で様々な知識が駆け巡る。幸い科学の知識がある分この世界の人たちよりアドバンテージがある。古代文明の時代には金も銀も銅もあったんだ。鉄って言葉も残っているほど使われていた。古代文明がどうして滅んだのかはわからないけど、この世界に科学の力を伝えてもいいかもしれない。


「僕はよほどのもの、作れる自信はありますよ」


残念ながら僕には魔法量の才はなかった。が、使えないこともない。操作はできるから細かなことには向いてるはずだ。

本音を言えば、魔法使いに憧れた。なりたかった。でも僕が本当に望んでいるのは、本当にやりたいことは。


「僕自分の夢には、がむしゃらに努力できるタイプなんです」


悠々自適ライフのために。


「僕、生産職になってみようと思います」

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