きっかけ(多分、こんな出会い)
ある日曜日。僕は古本や中古ゲームソフトなどの販売がメインの大手リサイクルショップを訪れていた。最近はプラモデルやトレーディング・カードなどの買い取りも行うようになったらしく、レジの近くに並んでいる。これらの商品は転売が問題にもなっているため、従業員が目の届く範囲に置かれているのだろう。
そういった商品には目もくれず、僕は目的の棚へと向かった。それは音楽CDが並んでいる棚で、目当てのジャンルは『その他』だった。そこにはアニソンにも分類しづらいゲーム音楽や子供向け音楽などが並んでいる。僕の目当てはこの子供向け音楽だった。『最新!子供向け音楽ベスト20!』『ヒーロー主題歌大集合』とかがあればその内容をチェックする。
僕は歌詞だけで内容がわかるような、熱い古めの特撮ソングが好きで集めているのだけど、さすがにカセットテープやレコードで聞くのは厳しい。かといって古くてマニアックな曲だと、スマホなどで聞ける音楽配信サイトなどでは配信されていないことが多い。そうなると狙いはCDだ。それも子供向けとして『おどるポンポコリン』などのヒットソングと十把一絡げにしたアルバムの中に、意外な曲が紛れ込んでたりする。
そして、そんなCDを探すにはリサイクルショップか図書館を利用するのが便利だ。見向きもされてなさそうなアルバムの中に、意外な曲が隠れていたりする。
「おっ、これって……」
手にしていたCDは戦隊ヒーローの主題歌が詰め込まれたアルバムだった。その中に入っている曲は大体がすでに持っているものだったけど、1曲だけ気になるものがあった。それはとある戦隊ヒーロー主題歌の『英語バージョン』だった。このアルバムが発売された当時に最新だった作品は、こういう特別扱いがあったりする。
(英語版は持ってないな。買おうっと)
僕はその500円もしないアルバムを手に取ると、ホクホク顔でレジへと向かったのだった。
◇ ◇ ◇
明けて月曜日の休み時間。教室内は騒がしいけど、よくつるんでいるオタク仲間の平良が今日は風で休んでいたため、僕は机に突っ伏して寝ていた。いや、まだ完全には寝てないのだけど、やることもないし寝落ちしてもいいかなって感じで目を閉じていたのだ。それでも耳には教室での話し声が入ってくる。すると……。
「アコっち~、ここわかんないんだけど~」
「んー? どこがわからいの」
そんな泣き言が聞こえて来た。アコ……というと、後ろの席の岩林アコさんのことだろう。どうやら友人女子の勉強を教えているようだ。岩林さんは容姿端麗で人当たりもよく、面倒見が良い。友人たちにはさぞや頼りにされていることだろう。
「ここ。【piercing through~】ってどういう意味だっけ?」
友人がそんなことを尋ねていた。piercing through? どこかで聞いたような……。すると、岩林さんの穏やかな声が聞こえて来た。
「【~を貫く・貫通する】って意味だよ」
「あっ、そっか。piercingってピアスってことなんだね」
「そうそう。穴を開けるのと一緒だね」
どうやら解決したらしい。もう聞き耳を立てるのをやめようと思った、そのときだった。
「そうそう。だから【
「えっ、【
僕は思わず顔を上げてそんなことを口走った。あっ、しまった。岩林さんがあの歌詞みたいなことを言うから、つい反応してしまった。恐る恐る背後を振り返えると、急に起き上がってなに言ってるんだろうという岩林フレンドの訝しげな視線と、目をまん丸くしている岩林さんの顔があった。
その視線に耐えかねて前を向こうとしたとき……。
「! フフッ」
岩林さんの目が爛々と輝くのが見えた気がした。
◇ ◇ ◇
そして授業を挟んで次の休み時間に入ってすぐ。僕は背中をポンと叩かれた。
「ねえ。佐々木くん」
そこには目を爛々と輝かせた岩林さんがいた。……見間違えじゃなかったのか。
「……なに?」
「さっきの休み時間。私が言ったこと、キミは理解してたでしょ?」
「言ってたこと?」
「【piercing through the milky way】……直訳すれば【天の川を貫く】だけど、天の川を銀河に置き換えてみたら、それはとある戦隊ヒーローの主題歌になる」
「………」
やっぱり、そういう意味だったんだ。銀河を貫くという単語が入っている戦隊ヒーロー主題歌といえば『星獣戦隊ギンガマン』だ。そして子門真人さんの声真似が特技である僕が、希砂未竜さんという謎の歌手が歌っているのにもかかわらず、なぜかソックリに歌うことができるこの歌には、英語バージョンが存在する。the milky wayはそのバージョンに出てくる単語だった。
「だから、佐々木君は
「あー……うん」
あの歌の中で、銀河を切りさくのは伝説の刃なのだ。
「その……岩林さんは、特撮好きなの?」
そう尋ねると、彼女は「うん! 大好き!」と即答した。
「だけど、あんまりこういう話をできる人は少なくてね~。まさか前の席に座ってる人が特撮ヒーロー好きの同志だなんて思わなかったよ」
「あ、いや……僕は……」
ヒーローソングは好きだけど、ヒーロー番組自体はそんなに観てないんだけど。そう言いたかったのだけど、引っ込み思案が禍してなかなか言葉が出てくれなかった。そんな風にモタモタしていると、岩林さんが手を差し出してきた。
「これからも話してくれると嬉しいな。よろしくね、佐々木くん」
「……あー……うん」
そんな陽だまりのようなニッコリ笑顔を向けられたら、なにも言えなくなる。彼女と握手を交わした僕は訂正する機会を失い、彼女に同志認定されたのだった。
特撮ヒーロー好きの岩林さんと特撮ソング好きの佐々木くん どぜう丸 @dojoumaru
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