特撮ヒーロー好きの岩林さんと特撮ソング好きの佐々木くん

どぜう丸

「特撮好き」にもいろいろある

 放課後。人が出払った教室の中に夕日が差し込んできて、なんだかセピア色っぽい景色になっている。そんな教室の中で、机を挟んで向かいに座っているのは万人が認めるであろう美少女。岩林さん。華やかな雰囲気を持っていてこのクラスの中心的な存在であり、その上、誰にでも素でやさしく接する姿勢から人気も高い。


 対して僕、佐々木直樹は俗に言うオタクグループの人間だ。大勢でワイワイ騒ぐよりも、気のあう仲間とオタク特有のディープな会話を楽しんだり、一人で黙々と趣味に没頭することのほうに楽しさを感じる人間だ。本来ならば、岩林さんのような陽キャな女の子と、放課後の教室で二人っきりなんてシチュエーションになるはずがない人物だ。


「ねえ、佐々木くん」


 岩林さんの艶めいた唇が僕の名前を呼んだ。


「な、なに?」


 緊張しながら尋ねる。平常心……平常心だぞ、僕。そんな動揺しまくりの僕の心中など知らないだろう岩林さんはクスクスと笑った。


「佐々木くんって直樹って名前なんだよね?」

「あ、うん。そうだけど」

「フフ、良い名前だよね。ナオキって」


 そう言うと岩林さんは両手をグッと握って、肩の近くまで持って来た。まるで「ガンバ♪」とでも言いそうな仕草で可愛らしいのだけど……彼女のことだ。きっとまた僕を悩ませることをするつもりなのだろう。そんなことを考えていたら、彼女は案の定、予想外の言葉を口にした。


「ジャ~ン、ファイト!」


 引き寄せていた拳を僕のほうへとグイッと突き出した。そして渾身のドヤ顔。まるで『佐々木くんならこれくらいわかって当然よね』とでも言っているかのようだった。その瞬間、僕は脳内検索エンジンは目まぐるしく動き出した。


(ジャン・ファイト……言ってたよな。たしかそんなワードの入った歌詞があったような……あっ、そうだ! 『ジャンボーグA』だ! でも、なんで『ジャンボーグA』? 歌詞を思い出せ。歌詞の内容を追っていけば、ある程度のあらすじはわかるはずだ)


 上がりそうになる息を抑えて、平静を装いつつ思考を続ける。


(歌詞の内容から察するに……地球の平和のために遠い星から贈られたものらしい。そしてジャン・ファイトという単語が出るのは、ナオキが叫べと言われたからだ。ということは……)


 考えがまとまった。俺は期待するような目をしている岩林さんと向き合う。


「ジャンボーグAの主人公と同じ名前だからでしょ?」

「そうそう。あの熱血主人公と同じ名前なんだもん」


 岩林さんは嬉しそうに笑った。どうやら正解だったようだ。


「Aも良いけど9も良いよね。Aよりも強い上位互換のロボットかと思ったら、敵が飛んだ瞬間に追えなくなって、『えっ、飛べないの!?』って唖然としたっけ」


 たしかそっちも個別のテーマソングがあったな。えっと……ジャンボーグ9に代わるのは……ジャンカーZ!


「カー……車だからしょうがないんじゃない?」

「フフ、まあそうなんだけどね。セスナのAと差別化ができてるよね」


 よし! なんとか乗り切った! ありがとう子門真人先生(歌ってる人。当時は谷アキラ名義)! ホッと一息吐いていると、岩林さんはクスクスと笑った。


「でも、私の名前も良いと思わない?」

「えっ……」


 すると岩林さんはグッと右腕を握って、外側から腕の筋肉を見せつけるようなポーズをとった。いや、見せつけられたのは筋肉ではなく夏服に隠せないプニプニすべすべした二の腕だったのだけれど。そのポーズは一体……。目のやり場に困っている僕に、岩林さんは言った。


「ほら、ときを飛び越えられそうな名前でしょ♪」

「………」


 あ、期待した目をしてる。くっ、なんとか絞り出さないと。


(時を飛び越える……『時の中を走り抜けて』……だと『ウルトラマンUSA』だけど、あれはアニメだから違うか。『超光戦士シャンゼリオン』の主題歌は『OVER THE TIMES〜時を越えて』だけど……あれは【とき】じゃなくて【いま】って読むからこれも違う。くっ、特撮ソングは時を飛び越えたり、駆け抜けたりするのが多すぎる!)


 落ち着け、僕。逆に考えるんだ。岩林さんは名前の話をしていたんだ。つまり、岩林さんが示唆している特撮番組と岩林さんの名前には必ず関係性があるはず。そして岩林さんの名前は……。


「岩林……アコさん」

「っ! あ、アハハ……急に名前で呼ばれるのって照れるね」


 岩林さんが照れたように笑っていてとても可愛らしいけど、そのことに気を向けられるような余裕はなかった。


(アコ……女性の名前……うろ覚えだけど、スーパー戦隊シリーズにそんな名前のキャラが居たような……戦隊ものの中で時を飛び越える……時を飛び越えと言えば……あっ!)


「ジェットマン」

「そう。陽気なアコちゃんことブルースワロー」


 そして岩林さんはまたあのポーズをとった。きっと飛び越えのときにキャラクターがとっているポーズを真似たのだろう。動画サイトにある戦隊ヒーロー歴代OP集みたいなヤツで見た気もするけど、そこまで憶えてなかった。


「いや~……ジェットマンはすごいよね。ヒーロー物なのに大人のドラマみたいで。世界の平和よりお前との愛を選ぶ、みたいな感じ? 小さい頃にはわからなかったけど」

「小さい頃って、同い年だよね? リアルタイム世代じゃないでしょ」


 すると岩林さんは楽しそうにニシシと笑った。


「佐々木くんなら絶対にわかってくれると思ったから」

「……買いかぶり、だと思う」


 こっちは内心ヒヤヒヤものなんですけど……。


 そう。たしかに僕は特撮ソングが好きで復刻版のCDなんかをコレクションしているけど、その歌が使用された“特撮番組自体はあまり観ていない”のだ。歌だけならば『海底人8823』や『バンパイヤのテーマ』とかだって歌えるけれど、本編映像は観てないというものは沢山ある。岩林さんのように作品が好きとは言えないのだ。彼女は僕のことを同志と思ってくれているようだけど、それは彼女の勘違いだろう。


 なんだか彼女を欺しているようで居たたまれない気分になる。早く「誤解なんだ」と打ち明けないと。このままじゃ針の筵状態が続くことになる。


「あの……岩林さん……」

「フフフ。やっぱり、佐々木くんと話すのは楽しいね」


 穏やかな笑顔で、心底楽しそうに言う岩林さん。夕日に照らされた彼女の横顔はとても無防備で、教室で大勢に囲まれてワイワイやっているときよりも無邪気に見えた。それはきっと……彼女が普段は隠している素の表情で……。


「……それは、なによりです」


 そんな彼女の屈託のない笑顔を観たら、誤解なんだと言い出せるわけもない。僕は立ち上がりかけた針の筵へと、ソッと座り直したのだった。




【岩林さん】

・氏名 岩林アコ

・年齢 16歳

・性別 女性

・身長 162cm


・体格 出るとこ出てて引っ込むところが引っ込んでいる、男子が魅了され、女子が羨ましがるするような体型。典型的なクラスのマドンナなので、水着で凹凸がハッキリと出る。


・性格 人当たりが良く、誰にでもやさしく接する。流行りの話題にもついて行けるが、マニアックな特撮番組トークができる同士を求めている。美少女ゆえにストーカーされた経験などもあり、グイグイ来るような男性は苦手。


・設定 昭和の特撮ヒーロー大好き女子高生。人当たりが良いため男女問わず人気が高い。特撮オタクであることを隠してはいないが、誰も彼女の話しについて行けないため、友人といるとき話題に出すことはない(不意に特撮ワードが出てしまうことはある)。佐々木を自分と同じレベルで語れる同士と勘違いし、お近づきになろうとする。

 

・イメージカラーは白と金。小物は赤。

・そのキャラの特徴的なセリフ(作中に出てこないものでも構いません)

「若さって振り向かないことでしょ!」「困ったことがあったらデジタイザーで呼んでね♪」


【佐々木くん】

・氏名 佐々木直樹

・年齢 16歳

・性別 男性

・身長 170cm


・体格 少し痩せよりの平均的な体格。昔、ダイレンロッドを使いこなすダイレンジャーに憧れて棒術を習っていたため、実は運動はできるほう。


・性格 大勢と居るよりは、気のあう友人とだけ楽しんでるのが好きな一人慣れしているタイプ。趣味に没頭しがちなオタク思考。自分の世界を持っているため、そんな自分の世界に入ってこようとする人物がいると引いてしまう。


・設定 昭和の特撮ソングが大好きな男子高生。昭和の特撮ソング特有の熱さと、観てなくても内容がわかるような歌詞が好きでコレクションしている。そのため番組本編を観てないのに主題歌だけ歌えたりする。岩林さんにヒーロー好きの同士だと思われ懐かれるが、曖昧な返事をしているうちにどんどん言い出しにくくなる。

 

・イメージカラーは黒と銀。小物は青。

・そのキャラの特徴的なセリフ(作中に出てこないものでも構いません)

「特撮ヒーローと時代劇の区分って難しいよね……」「子門真人さんの歌声は、やはり神」

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