29b.後輩とデート?(前)

「お待たせ」


ショッピングモールの入り口に着くと、そこには人を待っている後輩の姿。


まあその待ち合わせの相手は俺なんだけど。


「もー、遅いですよ、先輩!」


「時間通りだろ」


スマホの時計を見ると午前十時半。


待ち合わせの時間ぴったりである。


「こういうときは三十分前には来るのがマナーですよ」


「三十分はねえだろ、三十分は」


よくて十分、普通は五分。


そんなもんが相場だろう。


むしろ俺は約束の時間に間に合うようにちゃんと来たことを褒めてほしいくらいだが。


俺に時間を守るという概念は存在しないからな。


「普段はそれでどうしてるんですか」


「逆に考えるんだ、約束を守れないならそもそもしなければいいやと、そう考えるんだ」


「それじゃデート出来ないじゃないですかっ」


「まあそうだな」


俺が出掛けるときは、今から行くかと突発で企画するか、出発前から同行者と一緒にいるかのほぼ二択で生きてきたし。


「それで、小海は何分前から来てたんだ?」


「五分前です」


「本当は?」


「十五分前です」


早く来すぎだろ、と思ったが俺が言うべき台詞はそうじゃないな。


「待たせて悪かったな。今日の格好可愛いぞ」


待っていた後輩はいつもより気合いを入れてオシャレをしていて、短いスカートから見える生足が眩しい。


「急に褒めるなんてズルいじゃないですか」


「ほんとのこと言っただけだぞ」


「だから、そういうところですよ」


言いながら恥ずかしそうに顔を赤くする後輩の反応は新鮮だ。


「悪かったよ」


「別に、悪くはないですけど。次からはもっと早く来てくださいね」


「いや、次からは小海がもっと遅く来ていいぞ」


「じゃあその分待ち合わせの時間早くしましょうか」


「俺が起きられればな」


俺のスペック限界的に起床時間が午前九時より前になる待ち合わせ時間は高確率で寝坊するけど。


なんていうことで、今日のデート、デート?が始まった。




「伊織先輩はどういう水着が好きですか?」


水着が並ぶハンガーラックの間を並んで歩きながら、後輩がそんなことを聞いてくる。


「どういうって言われてもな」


後輩が試しに手にとって確認している様子を見ながら思案する。


布の面積が狭いやつ?


股の角度がえぐいやつ?


どっちも二次元のイラストじゃ定番だけどリアルで言ったら通報ものだ。


そもそもリアルでそんな水着を着けた人間と並んで歩きたくないけど。


「とりあえずビキニタイプがいいんじゃないか?」


「こういうのですか?」


後輩が手に持っていた物を自分の身体の前にかざすと、脳内でうっすらと実際に着てみている画像データが合成される。


今ならカメラで取り込んだ水着をデータ処理で試着できるアプリとかありそうだな、なんて閑話休題。


「悪くない」


「良くもない?」


「良くもなくもない」


点数にしたら60点くらい。


「あんまりよくないですねー」


まあその辺は採点者が基準をどこに置くかにもあるからな。


つーかあれな。


当たり前だけど試しに選ぶ水着がどれもバストサイズがでけーな。


水着のカップの中にメロンくらいならそのまま収まりそうなのがヤバいわ。


「なに考えてるんですか、伊織先輩」


「この水着、紐がほどけて脱げそうだな」


自然に会話を繋いだように装うと、後輩が腰の紐の部分を摘まんで引っ張る。


「こういうのは飾りだから大丈夫ですよ?」


「えっ!?」


紐がほどけていやーんって展開はあり得ないのか。


夢が壊されてしまった。


「だってほどける必要ないじゃないですか」


「それもそうか」


少なくとも下は左右どっちもほどける必要ないわな。


「上の背中側はほどけますけどねー」


「へー」


そこは着るときに結ぶ必要があるのか、なんて無駄な知識が増えてしまった。


それからいくつか水着を選んで、最終候補の値段を後輩が確認する。


「じゃあ試着してみますねー」


「って着るのかよ」


「当たり前じゃないですか、サイズちゃんと合ってなかったらお金がもったいないですよ?」


「まあそれはそうかもしれないが」


心の準備ができてないんだよ、なんて俺の内心を無視して後輩が試着室に入っていく。


それから待つことしばらく、シャッとカーテンが開いて水着姿の後輩が現れた。


赤いビキニと、そこに収まりきらない肌色が眩しい。


「どうですか?」


「いいんじゃないか?」


「そういうどうでもいい反応はいいんですよ」


俺の反応に後輩は不満げだ。


「そういわれてもな。ぶっちゃけどんな水着でも小海が着てたら魅力的なんじゃないか?」


主に胸が。


「だからそういう答えを求めてるんじゃないですって」


「えー」


俺が抗議の声を上げるが、不満そうな後輩はちゃんと褒めないと納得しなそうだ。


「水着似合ってるぞ」


「何点ですか?」


「100点」


「それは持ち上げすぎですね、もっと真面目にやってください」


めんどくせえな!


ということで次はパレオが付いてるやつ。


「45点」


フリルが付いてるやつ。


「70点」


ということで結局シンプルなビキニに返ってきた。


「90点。ちなみに100点は出す気ないからな」


なにかを審査するときに、満点というのはそれ以上があり得ないという天井を決める行為なので早々付ける気にはならない。


5段階評価とかなら流石に別だけどね。


つまり90点は言い換えると完璧ではないがかなり良い感じ、だ。


「うーん、シンプルすぎませんか?」


「素材がいいから飾りはシンプルな方が引き立つんだよ」


これは本音。


フリル付きの水着は胸が小さい女性向けって偏見が若干混じってるのは否定しないが。


「安易な褒め言葉ですねー」


「安易で悪かったな」


「でも、ありがとうございます。伊織先輩」


「はいはい」


そんな後輩の顔が少し嬉しそうに見えたのは、気のせいかもしれない。


「それはそれとして、ちょっと背中の紐引っ張ってみていいか?」


「いや、良い訳ないじゃないですか。何がどういう理屈ですか」


「水着が解けていやーんってやつを前からやってみたかったんだよ」


「馬鹿なこと言ってないで着替えるんでどっか行っててください」


「へーい」


ということで結局最後の水着を後輩が会計する。


「これでプール行けますね」


「俺は海パン持ってないぞ」


「えっ!?」


ということで、買い物の予定がもう一つ追加された。




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ネトゲのアプデを膝に受けてしばらく休んでいましたが、また少しずつ投稿再開しようと思いますのでよろしくお願いします。

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