28b.お宅訪問リターンズ

「お邪魔しまーす」


「いらっしゃい」


後輩を部屋に迎え入れてドアを閉める。


今日は夏休みなので朝から後輩が遊びに来ている。


普段何をしているのかを知りたいというリクエストだったのでまあ部屋に招く一択だった。


二度目だけどね。


当然部屋の中には葵もいないので俺と後輩の二人きり。


普通なら多少は緊張しそうなシチュエーションだが、意識してもしょうがないので気にしないことにする。


開き直ってるとも言えなくもないかな。


別に後輩を諦めさせたいわけじゃないけど、普段の自分を見せないと正しい評価にならないだろうしな。


それに家に女子を招くというシチュエーションで盛り上がるには、当たり前に遊びに来すぎてる奴がいるんだよなあ。


「それで、何かしたいこととかあるか?」


床に手荷物を置く後輩へと聞く。


「えっちなことですか?」


「えっちじゃないことだな」


というかえっちなことしたいのかよ。


「別にしたくないですけど」


「じゃあ言うなと」


勘違いで押し倒されても責任持たねえぞ。


いや、俺はやりませんけどね?


「それで伊織先輩はいつも部屋で何してるんですか?」


そんな後輩の質問にどうやってボケようか思案するが、よく考えたら真面目に答えるべきな問いなのでちゃんと答える。


「そうだな、ゲームしたり映画見たり漫画読んだりゲームしたりアニメ見たりだな」


まあ今から試しに体験してみるって話なら漫画とアニメは選択肢的に無しだろうけど。


特にアニメ。


それでもって言われたら『よりもい』見せるけどな!


あれ楽しめない人間とは一生仲良くなれる気がしないしチェッカーとして丁度いいだろう。(個人の感想です)


漫画は、一緒に過ごす時間の使い方としてはあまり有効ではないんじゃないかと思うわけで。


「んー、じゃあゲームで」


ということで最初の予定は決定。


「何かやりたいゲームとかあるか?」


パッケージ版で揃えてた頃なら並べてある棚見せればよかったけど、DL版が混ざる今だとこういう時ちょっと面倒だな。


ハードが複数あると特に。


「どんなのがあります?」


「格ゲー、レースゲー、パズルゲー、パーティーゲーム、アクションゲー、あとRPGもあるけどそっちは一人用だな」


「じゃあ格ゲーで」


「正気か?多分一番盛り上がらないぞ?」


「大丈夫ですって、昔ちょっとだけ遊んだことありますし」


「へー」


まあ、駄目なら別のゲームにすればいいかってことで最初のゲームは決まった。




ゲームを一段落して時計を見ると、ちょうど長針と単身が真っ直ぐ上を指して重なっている。


格ゲーは結局俺が指一本で操作していい勝負になるくらいだったがそれはそれとしてまあまあ盛り上がった。


そろそろ昼食の時間かー。


「小海昼飯食べてきてないよな?」


「そうですねー」


「じゃあどっか食いに行くかー」


「私は伊織先輩の手料理でもいいですよ?」


そういうのは男女逆だろ、なんてことは言わない。


そもそも冷蔵庫の中身が大して入ってないから肉と野菜を焼いたものくらいしか作れないって話でもあるが。


自分一人で済ませるならそれでもいいが、流石に客に出す気にはなれなかった。


「何か食いたいもんあるか?」


「オススメのお店とかありますか?」


逆に聞かれるとちょっと困るな。


よく行く店自体はいくらでもあるが、その中で女子高生向けと言われるとチョイスが難しい。


チェーン店連れてくのはアレだし、流石にカレーやラーメン食わせるわけにもいかないしな。


「匂いがキツイのはちょっとパスですねー。あ、でも中華とかでも大丈夫ですよ」


「もっとオシャレな店じゃなくていいのか」


「女子高生のことをなんだと思ってるんですか、普通にマックだって回転寿司だって行きますよ?」


たしかにそういわれればそうかもしれない。


「まあもちろん美味しいお店に連れてってくれた方がポイント高いですけど」


「一度下げたハードル上げるのやめろ!」


「あはは、冗談ですよー。私は奢りでそんなに文句言ったりしませんから」


「いつの間にか俺が奢ることになってる!?」


「奢ってくれないんですか?」


「……、まあ別にいいけど」


「じゃあ回らないお寿司食べに行きましょう!」


「行かねえよ!」


なんてベッタベタのボケだった。




「食ったなー」


「そうですねー」


昼飯を済ませて帰ってきて、ソファーに深く腰を落とす。


結局近所の蕎麦屋に行ってきたのだが、いつも通り美味かったので満足。


後輩にも好評だったしな、お世辞じゃなければだけど。


そこまで必死になって後輩の歓心を買う必要もないから気にしない気にしない。


「小海、何かしたいこととかあるか?」


「ゆっくりしたいですねー」


「じゃあ映画でも見るか」


「なら伊織先輩が一番好きな映画を見ましょうよ」


「一番……、だと……」


それを決めるのは生まれてから今まで食った物の中で一番美味かった物を選ぶくらい難しい問題だ。


「ちょっと、一時間くらい時間をもらおうか」


それで決められるかもわからないが、少なくともそれ未満で決まることはないのは断言できる。


「うん、やっぱりやめましょう。先輩のオススメでいいです」


「そうかー」


といっても今まで見たことある映画が数えただけで数百あるからまた何の指針もなしに決めるのは難しいな。


安易にジブリか君の名は。でも流しといてもいいんだけど、一応お互いを知るためって名目で今日は一緒にいるわけだしな。


あと折角だから初見の作品を見せたいみたいなところもある。


「とりあえず、ジャンル分けるか。まず苦手なジャンルはあるか?」


「ホラー系は苦手ですね」


じゃあホラーと、あとスプラッター系も除外か。


「リアル系とファンタジーなら?」


「リアル系で」


「ドラマとアクションなら?」


「ドラマで」


「非恋愛と恋愛なら?」


「恋愛で」


おおう。


自分で聞いといてなんだけど急にハードル上がったな。


そもそもヒューマンドラマはよく見るけど、恋愛物ってあんまり見んのよな。


ぶっちゃけ一番の苦手ジャンルだ。


「んー」


「難しいなら恋愛じゃなくても大丈夫ですよ?」


「いや」


聞いておいて別の方向に逃げたら負けな気がする。


「じゃあこれで」


「どんな話ですか?」


「彼氏に振られたミュージシャン志望の若い女性が夢破れて実家に帰る準備をしていると音楽プロデューサーの冴えないおっさんと出会う話」


「へー、面白いですか?」


「俺は好き」


「じゃあ見てみましょうか」


「あいよ」


サブスクサイトでワンポチしてもいいんだけど、棚にはブルーレイがあるのでそれを出してプレイヤーへ。


画質と音質はこっちのほうが良いしね。


そしてソファーに戻ると、隣に座った後輩がこちらを見る。


「そうだ、伊織先輩。膝枕しませんか?」


「どうした急に?」


「こうやってボディタッチで好感度を上げておこうかと思いまして」


「それ言ったら台無しなやつじゃないか?」


「細かいことはいいんですよ。ほら」


半ば強引に、頭を後輩のふとももの上へ運ばれる。


まあ俺も積極的に抵抗しようとはしてないんだが。


「どうですか?」


「胸の圧が強い」


「そうじゃなくてですね」


なんて言われても上を見ると胸がほぼ視界を埋めるうえに、不用意に触らないように注意しないといけないのがちょっと緊張するんだよ。


「まあふとももは柔らかいぞ」


「それはそれであんまり嬉しくないような」


いいじゃん、最近は太い脚が流行ってるし。


とか言ったりはしないけど。


「ほら、始まるぞ」


「はーい」


首を曲げるとテレビには制作会社のロゴが表示されている。


そのまま脚を横の肘掛けにのせると、初体験の姿勢もわりと快適だった。




外はまだ明るいけど時間はもう夕方、そろそろ後輩を帰宅させる時間だ。


「今日は楽しかったです、伊織先輩」


「俺も楽しかったぞ」


「ほんとですか?」


思ってたよりも、と言ったら失礼だけど事前に予想していたよりはよっぽど楽しめた。


正直二時間か三時間もしたら後輩が飽きてグダグダになると思ってたしな。


映画で二時間くらい時間稼いだけど、それ以外でもまあグッドコミュニケーションくらいで収まっただろう。


「ならまた遊んでくださいね」


「また今度な」


ということで帰る準備を済ませた後輩へ声をかける。


「家まで送ってくぞ」


「いいんですか?」


「まあそれくらいはな。歩きと車どっちがいい?」


「伊織先輩車持ってるんですか?」


「いんや、ちょっと寄り道すれば借りれるってだけ」


他の女に車を借りて女子を送ってくって言うと情けないように聞こえるが、葵は女じゃない(俺基準)なので気にしない。


「んー、やっぱり歩きでいいです」


「そうか」


まあ後輩がそう言うなら強要はしないが。


「だってそっちの方が伊織先輩と長く一緒にいられますし」


…………。


「あっ、先輩なんだか顔が赤くありません?」


「気のせいだろ。それより早くいくぞ」


「あっ、待ってくださいよ伊織先輩」


後輩を置いて部屋を出ると、夕方なのに外の空気はまだ暑かった。




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次回はお外でデートで水着を買ったりします。


次話投稿はだいたい二日後の予定です。

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