26b.後輩とその後

「どうしてですか……?」


悲しそうな後輩の顔を見るのは心苦しいが、これは嘘をついてもなあなあで済ませても誰も幸せにならない話。


「もしかして今付き合ってる人がいるんですか?」


「それはいない」


一緒に住んでる奴ならいるけど。


「なら、理由を教えてください」


「その前に、どうして小海は俺に告白する気になったか聞いていいか?」


「それは、伊織先輩と一緒にいると楽しくて、あと優しいから」


そんな後輩の言葉を聞いて、やっぱり俺の選択は間違っていなかったなと思う。


「まずプライベートで俺と一緒にいても楽しくないと思うぞ」


そりゃバイト先で冗談を言い合う分にはまだいいかもしれないけど、俺のプライベートなんてほぼ部屋の中で引きこもって過ごしてるだけだしな。


俺はそんな生活に満足しているけど、後輩が付き合ったらすぐに嫌気がさすのは目に見えてる。


後輩は陽の者だしなー。


休みの度に出掛けて誰かしらと遊んでるって言ってたけどその時点で生活形態が合わないのがわかる。


「それに俺は優しくもないぞ」


このまえ結果的に後輩を助けた形になったのだって、どちらかと言えばサボりで仕事増やしてくれた奴に絡んでやろうと思ったほうが主だったからな。


それだってその日の気分によっちゃめんどくさくてスルーしてただろうし。


「ということで、付き合ってもおそらく上手くいかないと思うぞ」


「そんなの付き合ってみなきゃわからないじゃないですか……」


悲しそうに、言葉を絞り出す後輩に罪悪感が生まれる。


とはいえ、実際に付き合ってみてやっぱりだめだったとなるよりは、多分だめだから付き合わないでおくといった方がマシだ。


別れた後も前と同じように仲良く、なんて幻想だろ?


というのは言いすぎかもしれないけど、個人的な経験で言えば有り得ないと思う。


まあそういうことができる人間がいることを否定はしないが、少なくとも俺や俺の周りでそんな事例を見たことはない。


「小海を悲しませたいわけでもないし傷つけたいわけでもないんだ。好きだって言ってくれたことはうれしいけどやっぱり付き合うことはできない」


これは俺の本心。


「そう……、ですか」


「ごめんな」


それから別れるまで、お互いに一言も喋らなかった。




「ただいまー」


「おっかえりー」


部屋に戻ると当然のように葵がいて、リビングでゲームをしている。


「今日は帰ってくるの遅かったわね」


「バイト先の後輩に告白されてた」


「へー、って告白!?」


驚く葵の顔は結構レアなので写真でも撮りたかったが確実に文句を言われるので我慢しておく。


「告白って『I LOVE YOU』の告白?」


「少なくとも『I KILL YOU』の告白じゃないわな」


というかそんな告白をしてくるのはガンダムのパイロットだけで十分である。


「へー、伊織に告白ねー。それでどうしたの?」


「当然断ったぞ」


「あら、もったいない」


「もったいなくはないだろ」


「いやいや、だって相手は女子高生でしょ?」


「顔が良くて胸がデカい女子高生だな」


「もったいない!」


たしかに。


「そもそも、俺に告白してくるような人間を俺は信用してないんだよな」


だって俺だぜ?


俺に告白してくるとかきっとなにか勘違いしてるに違いない。


客観的に見てな。


それに趣味の合わない彼女なんか作っても三日で別れる気しかしねえもん。


「まあそれはそうかもしれないけど」


「だろ?」


流石葵はわかりみが深い。


「ともあれ、まだ鍵は返さなくていいのね」


「まだどころかその予定は全くないぞ」


なんでわざわざ葵に告白されたことを正直に伝えたかといえば、鍵の問題があるから。


今回は恋人成立にはならなかったわけだが、先に伝えておくのが正しいだろう。


というか本当に恋人ができたら鍵返すだけじゃなくて置いてる荷物も引き上げないといけないしな。


「それじゃご飯食べましょ」


「異議なし」


ということで、今日も今日とて飯食ってゲームした葵は俺の部屋に泊まっていくのだった。




翌日、またバイトに行った俺は後輩と一言も話すことがなかった。


まあそのあと大変なことになるんだけど。


次回、我が家に後輩がやってくる。





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ということで今回は短めでした。


次回は普通の長さに戻ります。


次話投稿はだいたい三日後の予定です。


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