22.女友達と水着

バイトからの帰り道、洋菓子屋でカヌレが売っているのを見つけた。


うわなっつかしい。


昔ハマってたんだよなー。


なんて思いながら自然に店に入ってそれを二つ頼んで代金を払う。


おまけも買ってかないとなー、なんて考えていると丁度スマホが鳴った。


『アイス買ってきてー』と文面を見てそのまま既読スルー。


さーて、早く帰ろっと。




「ただいまー」


「おかえりー」


部屋に戻るとベッドの上で胡坐をかいて葵が座っている。


「アイス買ってきてくれた?」


「ほら」


持ってた袋の中身を葵に差し出す。


「あんがとー」


と感謝されるのはいいのだが……。


「その恰好なんだよ」


「なにってなにが?」


また俺何かやっちゃいました?みたいな顔をするんじゃない。


今の葵の格好は上がビキニタイプの水着、下が同じくビキニの上にホットパンツ。


街で歩いてたらワンチャン通報される格好である。


逆にビーチで歩いてたら秒でナンパされるだろうけどな。


「だって暑いし」


「まあ気持ちはわかるが……」


時刻は夕方七時過ぎ。


外はまだ夕方といった空模様で、当然蒸し暑さが残っている。


実際服脱いだ方がエアコン効かせて扇風機に当たるより手軽だし簡単に調整できるしな。


寒くなったら何か羽織るだけでいいし。


とはいえそういうのはひとりでいるときにやってほしいのだが。


「羞恥心とかないのか」


「だってみんな海かプール行ったら普通に着てるじゃない」


「それは時と場合によるんだろ」


TPOは大事。


ところでTPOってなんの略だろう。


タイム、プレイス、オ……、オ……、オブジェクト?


「ならこの部屋の中なら別にいいでしょ、伊織しかいないんだし」


そうかな……、そうかも……。


「それとも、あたしが水着だと伊織が落ち着かないとか?」


ニヤニヤと笑う葵は自分の顔とプロポーションを理解してる上でいってるから卑怯だ。


実際胸がデカすぎて下側が水着に収まってない上に支える紐が肩から浮いてブリッジになってるし。


それに適度に筋トレで絞られた身体は無駄な脂肪がなく、かといって筋肉質すぎるわけでも痩せすぎているわけでもない健康的な美しさを持っている。


あと、ホットパンツから見えるビキニの紐って普通のビキニよりもエロいよな。


しかし。


「それはない」


「即答されるとそれはそれでムカつくんだけど」


「お前だって俺が水着でも気にしないだろ」


「それはそう」


「即答されると確かにムカつくな」


ということで、葵に服を着せるのは無理そうなので諦めた。


「アイスうまー」


と言いながらスーパーカップバニラを貪る葵のアホっぽさがスゴい。


実際にアホだろって?


……、ノーコメント。


「ベッドにこぼすなよ」


「そんなことするわけないでしょー、あっ」


「フラグ回収早すぎぃ!」


思わずツッコミを入れたが、溶けて溢れたアイスはベッドには落ちず、葵の胸にキャッチされる。


「セーフ」


アウトだバカ野郎。


その絵面が完全にイメージなビデオでアウトすぎる。


定価2980円(税別)とかで売ってるやつな。


しかも胸の上に垂れたのを指で掬って舐め取るから更にアウトさが加速している。


葵が葵じゃなければ俺もヤバかったぜ。


「それで、なに買ってきたの」


というのはアイスを渡したあとに残ってる袋の中身。


「カヌレ、葵も食うか?」


「うわっ、なつかしー!食べる食べる」


ということで、二人分の皿とコップを用意してついでに飲み物も並べる。


「温かいのと冷たいのどっちにするー?」


「温かいのー」


「りょーかい」


ということで、温めたカヌレと一緒に温めたアルコール入りコーヒー牛乳、もといカルーアミルクを並べる。


一応解説しておくと、カヌレとは富士山とエアーズロックの中間のような形をした焼き菓子で、外はカリっと中はしっとりしているのが特徴。


個人的には結構好き。


詳しくはネットで調べて。


「そういえば、最近カヌレ流行ってるらしいわよ」


「へー」


俺と葵にとってのカヌレは某桜の季節の漫画のファングッズなので世間で流行ってると言われると不思議な感じだ。


ちなみにその頃アホほど食ったので、わざわざ詳細を確認しなくても二人分の準備ができるほど共通認識が生まれている。


「あっ、これ美味しい」


と呟いた葵が食べたのはカヌレのアイス乗せ。


「伊織にもあげる」


と葵がスプーンで掬ったアイスを俺の皿に移すので、同じようにカヌレと一緒に食べてみる。


「たしかに美味いな」


「でしょ?」


今度カヌレ買う時は合わせて買ってこよ。




ピンポーン。


「はーい」


「お前じゃねえ、座ってろ」


玄関のチャイムが鳴って、自然に水着姿のまま出ていこうとする葵を制止する。


水着の痴女が出てくる部屋とか風評が流れたら目も当てられない。


もはや人の部屋の訪問者に普通に対応しようとする時点で末期だが。


そのままリビングを出て玄関を開けると、外には配達の人がいたので段ボールを受けとる。


こんな時間まで配達のご苦労様です。


「なに届いたのー?」


「ゲームだな」


前に予約しておいたやつが、発送されたと連絡が来ていたのを思い出す。


「えっ、なに買ったの。見せて見せて」


と興味津々の葵に、観念して段ボールのガムテープを切る。


新作ゲームと言えば興味が湧くのがゲーマーの性ではあるが……を


「ってこれエッチなやつじゃない!」


そこに入っていたのはゲームはゲームでもアダルトゲーム。


本当は異性に見せるもんじゃないだろと思うかもしれないが、誤魔化そうとしても結局見られてイジられるのが目に見えてたから最初から諦めた。


「へー、伊織こういうのが好きなんだー」


「こういうのって?」


「女の子のおっぱいがみんな大きいでしょ」


「それはもうエロゲーのデフォルトみたいなもんだが」


というかエロゲーに限らず、貧乳キャラ以外は全員巨乳にしとけって風潮がオタク界隈全体にあるよね。


五等分する例のやつとか大人気だし。


「またまたー、そんなこと言っておっぱい大きい子が好きなんでしょ?」


「逆に聞くが、おっぱい小さい方が好きなオタクとかいるのか?」


「それは、いるんじゃない?」


「たしかに……」


まあ非ロリだとスレンダー性癖はマイノリティー側だとは思うけどな。


欲望がダイレクトに反映されるアプリゲームの美少女キャラなんて全体的に巨乳化の一途だし。


「でも伊織もこういうの見てエッチなことするんでしょ?」


「しないともったいないからな」


本当は、このゲームはオナニー目的じゃなくてシナリオを読む目的なんだが、そんなことを力説してもまともな理解は得られないのがわかっているので無駄な努力はしない。


分かりあえないって悲しいね……、バナージ。


まあそれでオナニーするかしないかって言えばするんですけど。


もったいないし。


「とりあえずインストールするから箱よこせ」


「はーい」


とA4サイズの箱を受け取って中身のディスクをPCのドライブに入れる。


それからしばらくは葵が箱の裏面の紹介を読んでいたが、満足したようで興味を失った。


「そいや、葵。夕食どうする?」


「んー、食べに行くのめんどくさいかな」


「まあ、そうだろうな」


外に出るならその水着の格好からちゃんと服着ないといけないし。


いや、水着の上からシャツを着てうっすら柄が透けるみたいなシチュエーションは好きですけどね。


やっぱりそういうのは海辺でやるもんだ。


「じゃあなにか作ろうかなー」


とキッチンに行った葵を見送って、PCのインストール状況を確認する。


今は半分くらいだから、飯より前には終わるかな。


まあプレイするのは葵が帰ってからになるだろうけど。


なんて勘案していると、キッチンから葵が勢いよく戻ってくる。


「見て伊織!」


「どうしたー?」


「これって裸エプロンみたいじゃない!?」


ぶはっ。


「うわっ、きたなっ」


あんまりも馬鹿な台詞に思わず吹き出してしまった。


コーヒー飲んだりしてなくてよかったぜ。


それはともかく。


「お前もうちょっと慎みってものを覚えたほうがいいぞ」


「なんでよ、裸エプロンみたいに見えるじゃない」


「それはそうだが」


水着の紐をエプロンの太い紐が完全に隠していて、正面からだとほぼ裸エプロンだ。


「エッチでしょ?」


「まあ顔隠せばいける気がする」


「それどういう意味よ!?」


そのままの意味だが。


「もう自撮りしてツイッターにでも投げたらバズるんじゃねえか」


「それいいわね」


「よくねえよ!」


冗談だわ冗談!


「なによ、やれって言ったりやるなって言ったりめんどくさいわね」


本当にやったら本当にバズるだろうけど、それはそれとして本当に面倒なことになる未来が見えすぎる。


「そもそもなんだよ急に裸エプロンって」


「伊織が買ったゲームのパッケージに載ってたじゃない」


んなの載ってるわけないだろ。


ちらっ。


載ってたわ。


「いや、そもそもお前は水着だろ」


水着エプロンは裸エプロンではない。


古事記にもそう書いてある。


「実は水着脱いだから、今は本当に裸エプロンなのよね」


「嘘だろ!?」


嘘でした。




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今回の話は沢山伏線張れたので過去イチ大満足です。


次回もお楽しみに~。

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