10.女友達と大学での日常
講義が終わって次の講義まで10分の休憩。
席を立ちながら佐藤が聞いてくる。
「次の講義なんだっけ」
「体育」
「体育かー」
体育はその中で更にいくつかの内容に別れているが、俺達が選んでいるのはバスケット。
大学に体育なんてあるのかと履修選択で見つけたときは思ったのだが、運動不足解消や簡単に単位が取れることもあってわりと選択している人間も多い。
ちなみにうちの大学の体育では評価の内訳が出席100%なので、毎回名前を書くだけで優が取れるゾ。
「じゃあ着替えとってくるわー」
と佐藤が運動着と運動靴を取りにサークル棟へと向かう。
こういう時サークル入ってる奴は荷物を置ける場所があって便利だよなと思ったり思わなかったりする。
「俺たちも行くか」
「うん」
既に準備を済ませてきている俺と鈴木は、そのまま更衣室へと向かった。
「鈴木は背高くていいよな」
ちなみに俺も平均身長より上なので運動で特に不便を感じたことはないが、一緒にバスケをしていると鈴木が羨ましくなることもある。
「高くて困ることもあるけど」
「講義の時とか?」
後ろの人がホワイトボード見えなくなるもんな。
「あと靴のサイズとか」
「それはたしかになー」
服もだけど靴はそもそも店に主流のサイズ以外殆ど置いてないとかあるしな。
なんて言ってもやっぱり実際に運動すると羨ましくなるんだけど。
佐藤と合流して出席を取り、バスケが始まるとやはり頭ひとつ抜けてる鈴木は目立つ。
シュート止めるにはその身長差分だけより跳ばないといけないしな。
バスケなんて身長が高い奴が勝つ欠陥スポーツってバスケ漫画でも言ってたし。
(なおそいつか大してでかくない奴にボコられていた事実は無視するものとする。)
まあそれでもバスケは昔部活でやってたから多少のアドバンテージはあるけど。
ということで、良い感じに俺ツエーして気持ち良くなってから、休憩に水分補給をしながら汗をぬぐう。
運動場の中、ネットのこっち側では男が、あっちでは女子が同じくバスケをやっていて、そこには見知った顔があった。
シューズを鳴らしながらコートを駆ける葵は、運動が得意そうな普段の印象通り活躍している。
躍動感のある美しさと言うのだろうか。
邪魔そうな胸部のウェイトをものともせず、短い髪を揺らすその姿は、異性として見てない俺からしても魅力的に映る。
葵の中身が葵じゃなければ惚れてたかもなー。
まあその時は唯一無二のゲーム仲間が失われるので差し引き大幅マイナスだけど。
「やっぱお前ら付き合ってねえの?」
「うわ、急に喋りかけてくるな!」
ビックリして思わず急に話かけてきた佐藤の顔を張り倒しそうになったぞ。
「そこまで驚くとはやっぱり怪しい」
「どこも怪しくねえよ」
「でもよー、阿智と仲良さそうな男なんてお前くらいだぜ?あんなにモテそうなのに」
あんなにモテそうって胸が?
と聞いたら肯定されても否定されても引かれても面倒なので流石に言わない。
「別に大学外に彼氏がいるかもしれないだろ」
そういうケースも大学生なら別段珍しくはない。
まあ葵がそうじゃないのは知ってるけど。
「生坂が狙ってないなら、俺が狙ってもいいか?」
「別にいいぞ、面倒だから手伝いはしないけどな」
というのは俺の心からの本音。
「……、その反応だと本当に付き合ってないんだな」
「だからそう言っとるだろうが」
「まあ生坂には阿智は釣り合わねえか」
「お前は自分を棚にあげるのをやめろ」
「あ?戦争か?」
「そもそもお前が言い出したことだろ!」
「たしかに、悪かったな」
「許す」
「許された……」
とこれくらいなら普段の軽口の範疇。
「まあたしかに、阿智はハードル高すぎるわな。彼女欲しいならもっと現実的なライン狙わねえと」
「今度お前に彼女できたら今の台詞聞かせてやるよ」
「ヤメロォ!」
なんて冗談を言ってるうちに他のメンバーも休憩を済ませて、運動再開の気配になるのでペットボトルを置く。
そのあとチラリと見えた葵はやはり活き活きとした表情をしていた。
その日の深夜、一人で道を歩いている。
いや、もう翌日だわ。
スマホに表示される時間は0時過ぎ。
まあオールナイトニッポンが終わるまでは日付変更前という説もあるけどケースバイケースで。
大学が終わってから飯を済ませて、予定通り麻雀をして盛り上がっていると、高橋のスマホがなった。
その時点である程度察したのだが、予想通り彼女に呼び出されて帰って行ったのが深夜23時過ぎ。
たっぷりと六時間打ち続けた上で、面子欠けの三麻する気にもならなかったので、そのまま解散と相成った。
ちなみに葵には今日は遊びいくからレポートは今度でいいぞと講義の休み時間中に連絡しておいた。
渡されに来て不在でも困るだろうという配慮だったのだが、その気配りは無駄に終った。
「おかえりー」
リビングに入ると、そこにはゲームをする葵の姿。
今日帰らないって言ったら普通は自分の部屋で過ごすだろうに、葵にはそんな常識は通用しないということを失念していたぜ。
まあいいか。
別に困らんしな。
しかし大学ではちゃっきりメイクもしてファッションもキメめてる奴が、部屋着でだるっとしている姿は温度差が酷くて風邪を引きそう。
「ほら、土産」
手に持っていた箱を渡すと、葵が不思議そうに聞いてくる。
「なにこれ」
「戦利品」
「?、ってケーキじゃない」
箱の中にはショートケーキ、チョコケーキ、チーズケーキ、フルーツケーキの四つ。
言わずもがな麻雀やってた面子で賭けた景品を総取りしてきたものだ。
「伊織、有能」
「そんなに褒めんなよ」
まあ毎回勝てるわけでもないけどな。
キッチンで手を洗う俺の横で、葵が皿とフォークを二組ずつ用意する。
普通ならここでケーキドラフト会議が始まるんだろうが、葵は自然な流れでアケコン (アーケードコントローラーの略:ゲームセンターの筐体に付いているような物)を差し出してくる。
という訳で、どのケーキを食うかで、格ゲーケーキバトルが始まるのだった。
まあどちらにしろ、結局お互い少なくとも全種一口ずつは食べたんだが。
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というわけで10話目です。
次からは段々とヒロインルートに入るための前振りをしていく予定です。
良ければ評価、ブクマ、感想よろしくお願いします!
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